恋の匂い
夕飯を食べながら、優は何やら楽し気ににやにやしていた。
「・・・どした?
なんか、えらいご機嫌やな」
「え? あ、うん・・・。
ちょっと、ね」
ふふっと、彼女は思い出し笑いも交えつつ軽快におかずを口に運んでいった。普段はぼけっとしたままゆっくりゆっくり咀嚼してから飲み込むものだから、夕飯時は毎度毎度食事の片付けが遅れてしまうのだが、今日は早めに終わらせられそうだった。
「何があったん?」
「・・・・別に?」
いつもなら、何でもかんでも彼に曝け出している優だったが、珍しくこの時は素直に言おうとはしなかった。
「お? なんか言えんようなやましいことなんか?」
「え⁉ い、いやいやいや、そそそんなこと無いよ⁉
ちょちょちょっとトモダチに助けてもらっただけっていうか・・・・‼」
「ほ~ん・・・?
『トモダチ』、ねぇ?」
元来社交性に欠ける優は、あまり人に頼ることがなく、家庭でこそ悟史におんぶに抱っこの状態なのだが、学校生活の中では一切そういった面を表出させなかった。そのため、彼女がトモダチと呼べる相手がいること自体が、悟史にとっては割と衝撃だった。
「それは、なんですか?
女の子の友達なんですか?」
「えっ? あ、えっと、その・・・・」
彼女の反応を見るからに、恐らく相手は男なのだろう。彼女は良くも悪くも正直な性格ゆえ、方便すらつけなかった。そのため、少しカマをかければ簡単にその真偽が図れるのだ。
「・・・・まあ、ええわ。
とりあえず、不純異性間交遊は控ええよ」
「う・・・、うん、大丈夫」
そう言って悟史は再び彼女の顔を見上げたが、相も変わらず彼女の口角は上がりっぱなしだった。