瀕死の足掻き
A棟三階。C棟と隣り合ったこの棟は、地形の関係から高さは同じなのだが階数にズレがあった。A棟は体育科のクラスが主に配備されており、元々の高さも然ることながらC棟に比べると三階建てと、二階分の差があった。
黒坂高校には体育館が二つあり、ひとつは全学生徒用、もうひとつは体育科の生徒専用として設置されており、A棟が保有する体育館は後者のものだった。
「はぁ・・・、はぁ・・・・」
息も絶え絶えに、悟史は体育館の中にある倉庫に身を潜めた。歩いてきた経路は彼自身の鮮血が奇跡を作ってしまっていたのだが、そんなことにすら気づかないくらいに彼は衰弱していた。
血が足りない。失血量が尋常ではなく、またそれによる酸欠も併発しているようだった。指先などは冷え切っており感覚もとうに失われてしまった。呼吸は浅く短く、リズムも不定期で、心臓の鼓動も速くなる一方だった。
「ハァ――――、ッハァ」
既に、半ば死を受け入れてしまっていた。いっそこのまま逃げ回らず、あの女の前に出て行ってしまおうか。そんな思いも脳裏をよぎった。
しかし、日常における彼の親しい仲にある者達のことを考えると、どうしても死ぬわけにはいかなかった。
「あまりにイージーゲーム過ぎて、なんの面白みも無いわね」
引き戸の向こうからは、腹が立つほどに澄んだ、凛とした声が響いてくる。直後、彼の隠れていた倉庫の入り口の戸が吹き飛び、轟音を立てて倉庫内の備品を破壊しつつ転がって行った。
「いい? もう一度だけ、チャンスをあげるわ。
次こそは本当に殺すから、全力で生き延びる姿勢を見せなさい」
空野はそう言い放つと、先程と同様瞬く間に姿を、音も無く消し去った。
「――――ァ」
このまま倉庫で眠ってしまいたい気分だった。しかし、そうすると万が一にも残されている生存確率を自ら破棄してしまうことになる。
固まった血と筋肉が、盲貫状態の遺物の数々を咀嚼する。そのたびに脳へと強烈な衝撃が襲い掛かったのだが、それにすらも慣れが生じ始めていた。




