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背負うもの  作者: ボールペン
第七話 非常への入り口
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美女の本性

 昼休み。相変わらず謎の違和感は拭えないまま、悟史は漫然と屋上へと向かった。


 空模様は灰色に染まっており、今にも泣きだしそうな様相を見せていた。人の気配はいつもどおり一切感じられず、入り口の屋根上にも、誰一人として出ていないようだった。そもそも屋外に人がほとんど出ていないらしく、いつもの喧騒は校舎内から響いてくるばかりだった。


「・・・ふぅ」


 誰もいない屋上の、その最も高い位置に独り腰を下ろし、のんびりと彼は弁当箱を開いた。昨夜の雨の名残りが制服のズボンを濡らしたが、特に気に留めることもなく、構わず彼は朝ごはんの余りを咀嚼していた。


「――――」


 謎の違和感は、やはり消えない。それどころか、この屋上が最も強く感じられる気さえした。口に入れる料理の味も分からなくなるほど、何か妙な感覚が彼の身体を這い上がってくるような気がして。


 思わず彼は立ち上がり、眼光鋭く辺りを見渡した。


「・・・・誰か、おるんか?」


 返事はない。それもそのはず、彼自身人の気配を察したわけではなかったのだ。仮にいたとしても、彼を覆う違和感が取り払われるはずもなかった。


「――――――――っ」


 そのはずだったのだが。





「あら、バレちゃった?」





 凛とした、湿気に淀んだ空気をまっすぐに貫く閃光のように澄んだ声色が、ふと彼の鼓膜を打った。


「・・・・空野、先輩?」


「こんにちは、笹ヶ原くん」


 いつ、屋上に上がってきたのか。入り口のドアが開く音は一切無く、まして人の気配など皆無であったこの屋上に、まさに瞬きの如く彼女は彼の背後に現れた。


「・・・・いつから、そこに――――?」


「貴方が来る、少し前からよ。

 ――――――――貴方を、待っていたから」


 そう言って彼女は口角を緩めた。女神のように眩いその笑顔は、普段なら女性に一切関心のない悟史であっても緊張を誘われて止まないものだった。確かに、この時も彼の心臓は平常よりも高らかに脈打っていた。


 しかし、明らかに緊張の種類が違っていた。


「どうしたの? 固まっちゃって」


「・・・・・」


 その緊張は、気のせいか否か、朝からずっと絶えず感じ続けていた違和感と酷似していた。否、似ているどころかむしろそれを高濃度に圧縮したような、得体のしれない恐怖にも似たものだった。


「ねえ」


「・・・近づくな」


 微笑みを貼り付けたままにじり寄ろうとする空野に、思わず悟史は牽制の声を上げた。


「え?」


「・・・これ以上、近づくな。

 アンタ・・・、何かおかしいぞ――――」


 数多のケンカの経験が、彼の脳内に全力で赤信号を灯していた。全身が、彼女に対して警戒の色を全面に出し、我知らず一歩引いてしまっていたほどだった。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


 無言のまま、空野は真顔に戻り、真っ直ぐに悟史を見つめた。その相貌はやはり芸術的なまでに美しく見惚れてしまいそうであったが、それでも今だけは彼女への警戒心の方が強かった。




「――――やめた」




 ふと、彼女が俯き声を漏らした。その瞬間、彼はようやく周囲の一切の音が消え去っていることに気が付いた。校舎内の喧騒どころか、風の音、鳥の声などの環境音さえも、綺麗さっぱり消し飛ばされていた。


「猫被るの、窮屈すぎてダメだわ。あ~あ、疲れたぁ。

 これでも、はじめは一瞬の内に終わらせてあげようとか思っていたのよ?」


「・・・・何を、言って――――」


 刹那。悟史の言葉を遮るように、背後から凄まじい爆発音が響き渡った。


「!!?」




「ほら、せいぜい無様に逃げ回りなさいな」




 振り返ると、何もなかった屋上には巨大な大穴が煙を吐きながら口を開けており、それに驚いている暇もなく彼は不意に浮遊感に襲われた。


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