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背負うもの  作者: ボールペン
第六話 雨の日の思い出
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無慈悲な事故

「雨――――」


 しとしとと降る雨に、悟史もまた追想に思いを馳せていた。




 親兄弟を失った中学一年生の春。病気で朦朧としていた意識ながらも、未だにあのニュースを目にした瞬間だけはハッキリと憶えている。あの日も、しとしとと降り続ける今日のような雨の日だった。事件の詳細は後日、現場の調査を行っていたという捜査関係者各位によって知らされた。


 早い話が、飲酒運転による玉突き事故だったそうだ。ちょうど踏み切りが下りて電車の通過を待っていた笹ヶ原家の車に、後方から飲酒運転をしていた大型トラックが思い切り突っ込んだらしく、それによって大きく前方へと飛ばされ、そこにちょうどやってきた電車に後ろから押してくるトラックごと撥ねられたのだとか。


 更に、電車に撥ねられ吹っ飛ばされた彼らの車が傍を通りかかった通行人を一名轢いてしまったらしく、まさしく大惨事であったという。最終的には笹ヶ原家三名、トラック運転手一名、電車の車掌一名と、電車の乗客六名の合計十一名が死傷者として数えられ、史上稀にみるレベルでの大事故となった。二次災害で轢かれてしまった通行人も、幸い一命は取り留めたものの植物状態となってしまったとか。


 この事故の何が問題かというと、加害者であるトラック運転手が独り身で、家族も離縁したばかりだったらしく、その上で亡くなってしまったために責任の所在が中空に浮かんでしまったことだった。警察の話では自殺するつもりだったのかもしれないとのことだったが、冗談ではなかった。一人の都合に、一体何人の人生が狂ったことか。


 悟史自身、どうすればいいか分からず混乱するばかりだった。怒りは勿論だが、それまでに経験したことのない感情も多々沸き起こり、それらが交錯し、混じり合って極彩色を放つものだから、ある時点で彼の脳はオーバーヒートしてしまった。


 それによって、かつてないほど攻撃的に、排他的になってしまい、何も受け付けず自らの内に閉じ籠ってしまったのである。誰に何と励まされようが、何一つ心まで届くことは無かった。




 ある意味で、その固く閉ざされた殻を破ったのは優だった。中学二年生の二月、三月頃だったか、彼女が唯一の肉親だったからと悟史を頼りにやって来た時には驚いたものである。彼自身肉親どころか従姉がいたことすら知らなかったため、初めは不審に思ったものの、聞けば彼女もまた家族を突如として失ってしまい、孤独になったのだという。そのことが、少しだけ悟史の心に音を反響させたのである。


 要因は全く違っていたが、二人は似た者同士だった。そのためか、悟史は無意識に優にだけは遂に一度も手を上げなかったのである。




「どうしたの?」


 ふと、優の声を耳にして我に返った。追想している内に感極まってしまっていたのか、いつの間にか優の頭を軽く撫でていたらしい。


「あ、いや・・・。

 ちょいと前のことを思い返しとってな」


 食後の卓上に勉強道具を広げて、よく分からない数式をつらつらと綴っていた優は、そんな従弟の顔をじっと覗き込んだ。そして、ペンをそっと置くと、おもむろにその首に手を回した。


「優――――」


「・・・大丈夫?」


 優しく抱き寄せた彼女は、さぞかし不安そうな表情を浮かべていた。


「・・・・ああ、大丈夫や。

 ――――すまんな」


「・・・無理はしちゃだめだよ?

 悟史、いっつも頑張ってるから」


 そっと彼女の腕を剥がすと、優は少し不満そうな顔で彼を見上げた。


「・・・やったら、ちょいとでも家事をできるようになっとくれ」


「うっ・・・、そ、それは・・・・」


「冗談やって。心配してくれてありがとうな」


 彼の冗談に頬をぷくっと膨らませる彼女を笑いながら、彼は席を立った。


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