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ふわっと起き上がる

西日刺さる。窓を突き抜け私の全てに。定時上がりでニコニコの太陽が手を振って、ギラギラ機体の旅客機が、真っ赤な空にスーッと白を引いて。学校帰りの小学生とお母さんが、シャカシャカ爪のワンちゃんを連れて、カレーの匂いと帰路についていく。この頃はもう肌寒くなってきて、吐き出した綿菓子を甘いねって、みんなで味わいながら、みんな今を過ごしている。そんな10月の暮れ時に、甘まいお菓子がそんなに美味しのかと自室でハアっと息を出してみたんだけど、酸味がかった工業廃棄物にも似た腐った空気がモワッと広がるだけで、また私は頬杖をつきながらため息で部屋を原始的な毒物で満たしてく。17歳で神様に篩い落とされた私は、頭の中いっぱいに前の見えない霧で満たされていた。別に良いや自分の道を行くって気にも留めてなかったんだけど、成人して大人と言われる頃には、身体のどこかに破綻者のスタンプが押されてて、隈なく身体中を洗ってみても落とせなくなっていた。そんな私の苦労も知らないで、みんなこぞってそこをめがけて、尿をかけてくるもんだから、人間恐怖症の片耳取れたノラ猫なんか越えちゃって、達観した公園の隅の古ぼけた枯れ木になっていた。あーあ、なんか良いことないかなって白目を向いて頭の中に足を踏み入れようとしたときに、下の階からお兄ちゃんが、呼んできた。なあ、散歩行かへんって。気の許せる友達がいないんだろうとか、仲間に入りたいんだろとか、彼氏が欲しいんだろうとか、家族は裏でよく話してるんだけど、そんなことは思ったことなくて、私はただ何処だか分からない幸せに行きたいだけなんだけど、実際のところそれが何処なのかは私も分からない。うん、行くって、返事をしたら、ほな、はよ準備してや。って言ってくるから、もう出れるよって言った。なら、降りてきて、もう出るよって言うから、わかったって言って、自分の世界の境界線を木製のドアーとかいうやつを開けて下界に出て行った。階段を降りたら玄関でジャージ姿のお兄ちゃんが、じいちゃん探しに行こやって言ってきた。最近のじいちゃんは、何を話しても、ヌワーヌワーしか言わないから、会話のしがいがないんだけど、可愛くて、自分が幼少期の頃の厳格なじいちゃんよりも好きだった。また勝手にどっかいったんって聞いたら、そやねん、晩御飯までには連れ戻さなあかんし、もう日が暮れるしって言うから、そりゃ、大変やねって言っといた。 実際のところ、じいちゃんはまだボケてなくて、毎日毎日続く平凡でつまらない日々に嫌気がさして、家族とかいう世間体を気にするくせに、内輪を重んじる謎の絆調和集団を抜け出したいと思ってるんじゃないかと私は思ってた。きっとむかし、なにかに騙されて行くとこまで行っちゃって、爆発しちゃったんだよって。まあ、暇だし、目的ある方が分かりやすいからって、コンバースの白を履いて、またドアーとかいう玄関の扉を開けて、今度は思ったより窮屈じゃない、冷たい世界へ足を踏み出した。空気は澄んでいて、木々は色を変化させつつあった。とりたて思い入れがない昔の記憶も何か懐かしく、戻りたいって思わせる魔法が日本全体にかかってた。ノスタルジックって言葉で上手く表現出来そうなんだけど、本当のところ他人と感覚を共有出来てるのかは疑問だった。そんなことお構いなく、馬鹿の考える思考の道筋なんて通らないお兄ちゃんは、まず公園から周ろうって言ってきた。うんっていう言うんだけど、お兄ちゃんの左足、ふくらはぎのジャージの部分に、ショウリョウバッタが、引っ付いてぶら下がってんのを見逃さなかった。責任感か使命感か、時間がないっていう焦りからか、あまりにも横顔が凛々しいもんだから、もしかしたら、私を誘うよりも前に、このショウリョウバッタをじいちゃん探しに誘って引っ付けてんじゃないかって思った。彼だか彼女だか知らないけど、なにか役に立つ術を持ってるんだよ。困った時には頼むねって心の中でお願いしといた。よしってお兄ちゃんは公園に向かって歩を進めようとした。

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