華音の源氏は関西のイントネーションで。
長谷川直美は、また少し笑う。
「何しろ、系列の学園だから、知りあいもあるの」
「それとね、私も中学までは、奈良なの」
「え?」と目を丸くする華音に、長谷川直美。
「だから、知りあいも多いの」
「もちろん、華音君の奈良のお屋敷のことも、よく知っているよ」
「まあ、ご立派な・・・おそれ多い」
華音は、首を横に振る。
「いえ・・・古い家系と言うだけで・・・」
長谷川直美は、話題を変えた。
「夏までというかな、そこまでは源氏を主に読んでいたの?」
華音は、ようやく普通の顔に戻った。
「はい、家に写本があったので、そこから」
二年の花井芳香が長谷川直美に、尋ねた。
「部長、どんな話を聞いていらっしゃるんですか?」
その質問に、三年生の佐藤美紀、一年生の志田真由美も興味があるようす。
長谷川直美は、華音を見ながら、少し笑う。
「華音君ね、すごく面白いことを言ったんだって」
「あのね・・・源氏にしろ、枕草子にしろ、和歌も含めてなんだけれど」
華音の顔が赤くなった。
しかし、長谷川直美は、かまわず、話を続ける。
「華音君ね、関西で書かれた書物なんだから、関西のイントネーションで読むべきと・・・」
花井芳香は目を丸くする。
「ほーー・・・超正論だ」
佐藤美紀は腕を組んで納得。
「そうだよね、つい標準語っていうか、関東のイントネーションで読むけれど、あの当時は、そんなイントネーション京都にも奈良にもなかった」
志田真由美は、目を輝かせて、華音に迫った。
「ねえ、華音君、源氏の冒頭を、関西のイントネーションでお願い!」
華音は、ますます顔が赤くなるけれど、全員に見られては仕方がない。
意を決して、「関西のイントネーションで」、源氏物語の冒頭「桐壺」を読み始める。
「いづれの御時にか、 女御・更衣あまた侍ひ給ひけるなかに、 いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふ、ありけり」
聞いていた全員が、目を丸くした。
花井芳香
「え・・・マジ?全然・・・雰囲気違う・・・」
佐藤美紀
「雅やかな・・・関東弁と全然違うって・・・」
志田真由美
「はぁ・・・ずっと聞いていたいかも・・・」
長谷川直美は、にっこり。
「華音君、声もいいわね、素敵」
「このまま録音したいくらい」
花井芳香が、その話を膨らませる。
「華音君を平安装束にして、関西イントネーション源氏朗読ビデオとか、面白いかも」
佐藤美紀
「うん、可愛いし、人気出るかも、女性ファンがつく」
志田真由美
「大騒ぎになりそう・・・」
華音は、ますます焦るばかり。
「とんでもない話になってしまった」
「前の学園では、途中で終わった話だったのに」
「ここに入るべきなんだろうか・・・」
華音は、文学研究会に入ることに、ためらいを感じている。




