華音vs空手部主将 炸裂!合気
空手部練習道場の中央で、空手部主将剛と華音が向かい合った。
審判は、顧問の松井。
「はじめ!」の号令とともに、空手部主将剛は、空手の構えの基本である「半身」の構えを取る。
この、半身という構えは、相手に対して体を横に向けたまま顔は正面を向く。
相手からの打撃面積を減らすことを目的とした構え方になる。
また、この構え方は空手の多くがポイント制を採用していることに由来する。
ポイント制においては、半身の構えで、攻撃したら、すぐに離れてポイントを稼ぐほうが有利であり、相手と間合いを取りやすい。
それと、半身からの方が横蹴りや回し蹴りといった様々な技をしかけやすいという利点を持つ。
一方の華音は、特に構えを取らない。
しいて言えば、手をブラブラとさせて、剛を見ているだけ。
「なめてんのか!」
空手部主将剛は、直情型を持ってなる男。
華音の半端な構えを見て、いきなり激してしまった。
「エイヤ!」
練習道場全体に響き渡るような剛の気合とともに、「渾身」の正拳突きが、華音に迫る。
次の瞬間だった。
「ギャア!」
練習道場全体に、剛の悲鳴が鳴り響いた。
そして、剛の身体が、道場の壁近くまで、飛ばされている。
「うわ!」
審判役の松井顧問がうなった。
剛を見ると、腰を抜かして放心状態。
立ち上がろうとするけれど、何度もそのたびに、腰が落ちてしまう。
「一本!」
審判役は、練習道場中央に立つ華音に、勝利を宣告した。
華音は、頷いて、空手部主将剛に声をかけた、
「剛さん、お怪我は?」
いつものやんわりとした声。
剛は、まだ放心状態。
「ああ・・・よくわからない・・・これ・・・合気?」
その声も震えている。
華音は、少し笑った。
「はい、一般で言う、合気を使いました」
「と言っても、私の師匠は、区別をするなって、叱ります」
松井顧問は。まだ驚いたまま。
「剛の正拳突きが華音君に当たる瞬間を見切って、華音君が動いた。
「よくわからないけれど・・・次の瞬間、剛は壁まで飛ばされてしまった」
そして思った。
「合気道、中学日本一は、伊達じゃない」
「合気道なんて、実戦では使えないと思っていたけれど・・・」
「使えないどころか、これは怖ろしい」
華音から、松井顧問に声がかかった。
「松井先生、どうします?」
ハンナリとやさしい声。
松井は、不安を感じた。
「もし、俺も剛みたいに、壁まで飛ばされたとなれば・・・」
「名誉も何もない」
「恥ずかしいだけだ、大人の空手部顧問が、高校一年生に・・・」
華音は、やわらかな笑みを浮かべ、松井顧問を見つめている。




