調査開始(3)最初の始末
県議の息子と仲間の高校生たちは、ビールを飲み、料理を食べ、大騒ぎを続けている。
しかし、華音と久保田紀子、他の客に対しては、店員は料理を出すどころか、注文さえ取らない状態。
その状態が30分続いた時点で、華音は久保田紀子に目配せ、立ちあがった。
注文を取らない店員が、ようやく席に来た。
華音は、厳しい顔。
「他の店に入ります。これでは食事ができません」
店員が、「実に、申し訳ありません」と小さな声で頭を深く下げたので、そのまま店を出た。
店を出て、数分歩いた時点で、久保田紀子が口を開いた。
「全て録画済み、サイトにアップしようか?」
華音は笑顔。
「ああ、いいね、面白くなる」
「別の店に入ろう」
そのまま別の海鮮料理店に入ると、久保田紀子は含み笑い。
「実はあの店に県議のバカ息子が出入りすることは、柳生の下調べからわかっていたの、本当にうまく入って来てくれた」
華音も頷く。
「そんなことだろうと思った」
久保田紀子
「何でも食事しても酒を飲んでも、バカ息子は何も払わないとか」
「よほどの弱みを握っているのか」
さて、今度の店では邪魔をされずに、華音は刺身定食、久保田紀子は牡蠣フライ定食を食べる。
華音は美味しくて仕方がない。
「奈良育ちで海鮮は憧れ」
「やはり、海に近い方が新鮮なはず」
久保田紀子は、笑顔。
「牡蠣フライ一つと鯛のお刺身と交換しない?」
華音も笑う。
「その交換癖、昔から変わらない」
そんな食事の後、若い店主に「県議と、そのバカ息子」の情報を聞く。
店員は呆れた顔で、簡単に話してくれた。
「ああ、あの県議とバカ息子ですか?」
「県議は三代続く土建屋・・・ヤクザまがいの」
「かなり利権を握っていますし、選挙には強い」
「バカ息子は野球部、それほど強くはないけれど田舎の高校では野球部は花形」
「それで舞い上がって、やりたい放題」
「それと・・・あの店は、かつて食中毒を起こしたけれど、県議が保健所に圧力をかけて、もみ消し・・・それから県議とバカ息子には何も言えないんです」
華音は、あまりにも簡単に情報を言うので、逆に不安。
「あの・・・そこまで言って・・・危険では?」
すると店主は笑顔。
「大丈夫です」
「私も奈良出身」
「柳生隆さんと同級生」
「華音さんのことも、よく話題に」
華音が驚いていると、久保田紀子がタブレットを華音の前に。
「ね、華音ちゃん、動画アップした」
「大騒ぎになるね・・・再生回数がもう1万回越えた」
「高校生が酒飲んで大宴会」
「・・・高校名と県議の名前も出ているよ」
「これで、最初の始末が出来たかな」
華音は、その顔を厳しくしている。




