久々の朝の鍛錬にて
華音が目覚めたのは、午前4時。
思わず苦笑した。
「この部屋で眠ると、条件反射かな」
「何しろ物心つかない子供の頃からの・・・」
そのまま道着に着替えて、部屋を、そして屋敷を出て、走り出す。
方角は、西の京を出て、春日山。
ほとんど人には出逢わない。
途中で馴染みの山小屋に入り、しまってあった木刀を手に取る。
「うん、そのままか」
木刀は、やはり手になじみ、それがうれしい。
「そして・・・この小屋を出ると」
予想通り、稽古相手が木刀を持ち、待っていた。
屋敷の運転手であり、中学まで柳生霧冬が不在の時に、稽古相手を務めた今西達夫である。
華音は、木刀を構えながら声をかける。
「ありがとう、懐かしいな」
今西達夫は厳しい顔。
「霧冬先生ではないので、若の迷惑になるかもしれませんが」
華音は、それには反応しない。
「そんなこと思っていないでしょ?」
「東京に行って腕がなまったと思っていない?」
「今西のおじさんだって、かつては剣道日本一」
次の瞬間、今西達夫の突きが、華音の喉元を襲う。
しかし、華音には当たらない。
「カラン・・・」
今西達夫の木刀は、地面に転がっている。
そして、華音の木刀の先は、今西達夫の額の先数センチに付けられている。
今西達夫が呆れた声を出す。
「若・・・やはり勝負になりませんね」
「ますます腕を上げられて・・・まさに・・・」
華音の表情が曇った。
「霧冬先生が、人間凶器って・・・」
「それ、言わないで欲しい」
「マジで嫌だ」
今西達夫は、頭を下げた。
「はい、それも霧冬先生から聞いてはおりましたが」
「それを一瞬忘れるほどのすさまじさ」
「申し訳ありません」
華音は再び山小屋に入り、木刀をしまってから出て来た。
「今西の叔父さん。屋敷に戻るよ」
今西達夫は、再び、頭を下げた。
「やはり、お辛いんですね」
「強過ぎが」
華音は黙って歩き出す。
それでも、しばらくして口を開いた。
「だから、文学とかに力を注いだ」
「でも、これからは」
今西達夫は華音の次の言葉に予想がつかない。
華音は強めの声。
「資格を取ろうかなと」
「司法試験」
「それが取れたら、公認会計士」
「それを持っている経営者でもいいかなと」
今西達夫は、華音に聞く。
「それを大学在学中に?」
華音は、クスッと笑い答えた。
「そうだね。面倒だから、両方とも一度で合格したい」
今西達夫は、驚いて声も出なくなったしまった。




