実家での風呂、夕食、睡眠
華音にとっては久しぶりの実家での風呂である。
何しろ広大な屋敷なので、露天風呂も檜風呂も東京の風呂とは比べ物にならないほどのスケール。
「子供の頃は泳いだけれど」
「霧冬のじいさんと、鍛錬の後は何時も一緒」
「鍛錬は厳しかったけれど、風呂では一転してやさしかった」
「だから、鬼のような修行にも耐えられたのかな」
そんなことを思いながら、また現在や今後のことも考える。
「都内での柳生の仕事、司法試験、会計士試験の勉強も大変」
「今回は親父の・・・と言うか家業の一環、ミスはできない」
華音は、そこまで考え苦笑した。
「これではリラックスどころではない」
「・・・いつまで、こんなストレスが続く?」
時計を見ると、既に夕食の時間が迫って来ている。
華音は、風呂を出て、慣れ親しんだ食堂に向かう。
その途中で、数多くの使用人が華音に頭を下げる。
華音も、一人一人に「ありがとう」と頭を下げたり声をかけながら食堂に入った。
食堂に入ると、母慶子が待っていた。
母慶子。
「父さんは、接待を申し込まれて出かけました」
華音はやさしく母を見る。
「そうなると、久しぶりに母さんと僕だけ?」
母慶子は、笑顔。
「うん、華音を見たら元気になった」
「一品作ったよ、華音の好きな、あれ」
華音も笑顔。
「ありがとう・・・うれしい」
料理人たちが笑顔で、料理を運び出す。
どれも懐かしい奈良の郷土料理だった。
「ずいきの煮もの」「大和まなと薄揚げの煮もの」「あまごの甘露煮」「奈良のっぺい」「柿の葉寿司」「にゅうめん」に続いて「オムレツ」が運ばれて来た。
華音が手を合わせて「いただきます」と食べ始めると、母慶子が笑う。
「ありがとう、私のオムレツから?」
「いつも、そうなるね」
華音も笑う。
「奈良の地鶏の玉子・・・これが食べたくてね」
「やはり都内とは味の濃さが違うの」
母慶子はやさしい顔。
「うん、たくさん食べてね、華音の食べる姿が見たくてね、ずっと」
華音はそこで反省の弁。
「何も連絡しなくて、ごめんなさい」
その華音に母慶子は笑う。
「だって、シルビアちゃんも春香ちゃんもいて、おまけに今西圭子と松田明美でしょ?」
「ルーマニアからのエレーナさんも加わって、華音なんて、てんてこ舞いだよね」
華音は少し顔をあげる。
「うん、図星」
母慶子は笑顔で続ける。
「雨宮さんの瞳ちゃんも、一度連れて来なさい」
「お母さんにも逢いたいなあ」
華音はしっかりと頷く。
「うん、次は必ず」
そんな平和な夕食を終え、華音は自分の部屋に戻った。
そして思った。
「周りにうるさいお姉さんたちが・・・いない」
「こういう時しか安眠は無理」
「この夜を大切にしなければ」
その後は、調査するホテルのホームページを少しだけ見て、華音は眠ってしまった。




