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犬養邸の前で

いきなりの格闘がおさまったので、今西圭子は柳生霧冬に尋ねる。

「霧冬先生、今回の上京は万葉集の大先生からのお誘いなのですか?」

「それとも華音君を見たくて?」


霧冬は、少しだけ華音を見て、フンと鼻を鳴らす。

「ああ、大先生のほうや」

「華音は、おまけ」


華音は、その態度が気に入らない。

「だったらどうして襲い掛かる?」

「80を過ぎて人を襲うなんて、常識がない」


霧冬は、柳に風と吹き流す。

「は?たるんでないか確認しただけや」

「女子に囲まれ、うつつを抜かし」

「まあまあやったから許すけど」


華音は、また憤慨する。

「女子に囲まれるって、僕が呼んだわけではなくて」

「知らない間に周りにいるんです」


今西圭子は、また怒る。

「ねえ、そこの師匠と弟子!」

「どうしてこれから人に逢うのに、そこでじゃれる?」

「大先生に笑われます」


しかし、今西圭子の言葉など、霧冬も華音も聞いていない。

霧冬

「今日から柳生事務所で少し寝泊りする」

華音

「何かあるんですか?」

霧冬

「ああ、今の柳生事務所でも対処できないほどのテロが起きそうや」

華音

「それは大変ですね、手伝います」

霧冬

「ああ、頼む、今日の先生との話が終わったら柳生事務所に」

華音

「わかりました」


今西圭子がヤキモキした霧冬と華音の会話は、そこで終わった。

「柳生事務所でも対処できないほどのテロ事件」が気になるけれど、今は万葉集の大家の先生との面会を優先させなければならない。

それもあって今西圭子は、眉間にしわを寄せ、面倒そうに霧冬と華音を見ている。


今西圭子の気持を読んだのか、霧冬はようやく、純和風家屋に向かって歩き出す。


「圭子、そう焦るな」

「犬養の爺さんには、少し華音と遊ぶって言うてある」

「ほら、見てみい」

「あの二階から顔を出しとるやろ?」

「じゃれあいも最初から見取った」

「あれも、華音の格闘も見たい言うたから」


今西圭子は、またしても呆れた。

「真面目な万葉集の話になるかと思えば、それですか?」

「80を過ぎた老人が華音ちゃんで遊んで」

「華音ちゃんが、振り回されて可哀想や」


ただ、華音は再び緊張。

「万葉集の大家って、犬養先生だったのか」

「天皇家とも親しい」

「でも、そんな大先生がどうして僕を?」


霧冬が華音に答えた。

「とにかく屋敷で全て話す」

「まずは、犬養と対面」

「それからや」


霧冬の顔が、引き締まっている。

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