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合同イベント「万葉集 笠女郎の恋」(8)

鈴村律は、一旦深呼吸、司会を続ける。

「それでは、笠女郎の恋 最後の二首となります」

「発表者は、華音君と再び教師の方々となります」

「尚、この二首は、万葉集第八巻の春と秋の相聞に一首ずつ、収められています」


その司会を受けて、女子生徒たちは一斉に退場。

そして、華音と教師たちが登場する。


一首目は、華音の柔らかく甘い声による詠唱。

「水鳥の 鴨の羽色の 春山の おほつかなくも 思ほゆるかも」

現代語訳を伊集院洋子。

「水鳥である鴨の羽の色のように、緑がかっておぼろに霞む春の山のように、家持様のお気持ちも、霞んでいてはっきりとわからなくて、不安でなりません」

解説を萩原美香。

「笠女郎の全二十九首のうち、季節に関わる歌は、この春の歌と次の秋の歌だけになります」

「さて、上三句の水鳥の 鴨の羽色の 春山のは、その次の句のおほつかなしを導き出す序詞」

「鴨の羽の色は、茶色が基調となりますが、真鴨の雄は頭と首は艶のある濃緑色、翼も緑色を帯びた複雑な色合い」

「その色合いが春の山と重なることから、春山の比喩になります」

「そして、笠女郎の家から見えるのは、春日山か高円山でしょうか」

「それが、おほつかなしになりますと、対象の心の中がぼんやりとして、はっきりしないということ」

「そこから生じる不安やもどかしさ」

「あなたの態度は、あなたの気持が、よくわかりません、本当に私を心から愛してくれるの?」

「それを、比喩をつかって確実に理解してもらおうとしています」

「おそらく、この歌は、初めて家持に抱かれた直後ぐらいの歌、初めて異性への愛を知ってしまった間もない女性の不安な思いを、表現しています」


既に笠女郎の失恋を知っている聴衆は、再び、恋の最初の頃の初々しい気持ちに戻り、ため息をつくような、うっとりするような、複雑な表情に満たされている。


笠女郎の恋の最後の歌になった。

詠唱は、華音。

「朝毎に 我が見る屋戸の なでしこが 花にも君は ありこせぬかも」

現代語訳を、田中蘭

「毎朝、私が見る庭のなでしこの花は、あなたであって欲しいのです」

解説は大塚由美。

「万葉集第八巻の秋の相聞に収められています」

「なでしこは、秋の花なので、秋の相聞になります」

「さて、なでしこが咲くのは、朝というわけではありません」

「しかし、恋愛関係にある男女にとっての朝は、夕方とは違います」

「一夜を過ごした後の朝は、再び愛を確認できる時間」

「昨夜の逢瀬は、夢ではなかった、現実であったとの確認なのです」

「毎朝、なでしこを見たいと詠むのは、毎朝、家持様を見たいということ」

「その裏には、家持の訪れが無い時期が続いていたのか」

「今後も、そんな日が続くのかとの不安」

「その不安を表現するのに、なでしこの花を使う」

「強引でもなく、控えめな優しい、甘えるような表現が、とても可愛らしいのです」


田中蘭は、ここで、間を置いた。

「そして、もしかすると、珍しく逢瀬があった時に、家持に直接詠んで贈った歌なのかとも、言われています」

「そう思うと、笠女郎の哀しい思いが、少しでも救われるのではないかと」


満員の聴衆、女子生徒のほとんどが目頭を押さええるなか、鈴村律が司会。


「この歌を持ちまして、笠女郎の恋の歌の紹介を終わります」

「今から1300年も前の女性、笠女郎の恋する思い」

「その思いの切なさを感じていただければ、幸いです」

「ご清聴ありがとうございました」


ステージに上に、発表者全員が再び登場、深く頭を下げると、客席の聴衆も全員立ち上がり、ものすごい拍手。


「ありがとう!」「よかった!」「泣いちゃった!」・・・


そして、ステージの上で、華音は女子生徒に囲まれ、真っ赤になっている。


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