華音のパンク、それぞれの想い(2)
家を飛び出して華音の御屋敷に走って行く娘瞳を見て、母好子はいろいろ考える。
「華音ちゃんも人間だった」
「あまりにも、いろいろ優秀でやさしいから、みんな期待する」
「それで華音ちゃんは頑張り屋だから、懸命に応えようとするし」
「結果も普通では考えられないほど、素晴らしかった」
「だから、ますます期待を集める」
「でもね、親元を離れたばかりの15歳の男の子だよ」
「いくら心と身体を並外れて鍛えてあると言っても、限界がある」
「親に心配させないようにと、電話もしなかったし」
「シルビアちゃんと春香ちゃんの文化祭なんて、たいしたことではないけれど」
「それを心配した明美さんの一言で、膨らんだ風船がパンクしてしまった」
「よほど、内面は苦しかったのかな」
そこまで思って、我が娘の瞳にも不安。
「あのお屋敷に走って行って何をするつもりなのかな」
「エレーナの癒しは、素晴らしい」
「あの真面目でカチコチの華音ちゃんを泣かせてしまうほど」
「瞳に、そこまでの包容力は・・・ないな」
「となると・・・瞳ならではの頑固さかな・・・普段はおっとりで」
「いざという時は、信じられないほどの頑固さ」
さて、瞳が華音の御屋敷に駆け込むと、立花管理人がリビングに誘う。
「華音様は、まだお部屋で、エレーナ様と」
ますます不安な顔になる瞳に、シルビアが「ここまでに至った事情と華音の言葉」を説明した。
瞳は、「え・・・本当ですか・・・」と、身体を振るわせて、ソファに座り込んで、しばらく考え込む。
松田明美は、瞳にも謝った。
「ごめんね、つい、余計なことを言ってしまって」
「心配かけてしまって」
瞳は首を横に振る。
いつになく、その表情が厳しい。
「いえ、私たちも、悪かった」
「でも、そんなことより」
「まず、華音君の気持を知りたい」
「華音君の気持をしっかり聞いて、私は私で気持を伝えます」
瞳は、ソファから立ち上がった。
春香が瞳に声をかけた。
「瞳ちゃん、どうするん?」
すると瞳は、はっきり、そしてキッパリと言い放つ。
「取り戻しに行きます」
「私、奈良に帰しません」
「私、華音君と別れるくらいなら、生きて行けないから」
瞳は、驚く周囲の顔などは見ない。
そのままリビングを出て、華音の部屋に向かって歩き出す。
リビングに残された面々は、あっ気に取られるばかり。
シルビア
「あの目力は何?」
春香
「やはり、瞳ちゃんが正妻かなあ」
今西圭子
「私たちは、ただ可愛いだけで遊んじゃうけど」
松田明美
「エレーナちゃんと瞳ちゃんに完敗・・・って私が悪いんだけど」
柳生隆はクスッと笑う。
「まあ、大丈夫だよ、きっと、時々華音は、ブンむくれることがあってね」
柳生清は、下を向いてクックと笑っている。




