文化祭に向けた共同作業の開始
春香が連絡を取って、約一時間後、華音の学園の文学研究会全員が華音の屋敷に、集まっている。
シルビアと春香の学園の古代史研究会との双方の顔合わせ、自己紹介の後、華音は、二つの学園の女子高生たちを前に、一応の基本的な説明をはじめた。
「テーマにしたいと思った笠女郎は、系譜等は未詳です」
「大伴氏と同じで、元は明日香の地域で、笠女郎とは近所だったらしいけれど」
「歌人としては、奈良朝後期の代表的女流歌人の一人で、万葉集に二十九首の歌が採られています」
「そのすべてが、大伴家持に贈った相聞歌、つまり恋の歌」
「時期的には、天平年間の初め頃の作とされています」
「尚、勅撰二十一代集では玉葉集・新千載集・新拾遺集にも各一首採られています」
「さて、万葉集には第四巻に一括して二十四首」。
「それ以外では、第三巻の比喩歌として三首」
「第八巻の春相聞の部に一首、秋相聞の部に一首収められています」
「ただし、そこまで多数の歌を贈った笠女郎に対して、大伴家持からの返歌は、わずか二首」
「大豪族大伴氏の筆頭となる運命の家持と、笠女郎とは厳然たる身分差があった」
「家持は、あくまでも遊び」
「笠女郎は本気、あわよくば」
「結局は、笠女郎は恋に破れて平城京から明日香に戻ります」
シルビアが華音に声をかけた。
「その経歴は、一応、講義資料に書くよね」
「それと万葉集に採られた全二九首の原文と現代語訳も」
華音は、頷く。
「それほどのページ数にもならない」
春香が、集まった女子高生全員の顔を見た。
「恋の歌だから、私たち全員で分担して現代語訳をしない?」
「華音だと、少し几帳面過ぎるかも」
長谷川直美が、面白そうな顔で、シルビアと春香の学園の古代史研究会部長鈴木律に。
「もう少しポップな感じに?」
鈴木律もにこやか。
「そうね、千三百年前の若い娘の熱い想いを、今風にポップに華やかに」
花井芳香
「奈良平城京で、その時代の服装を着た祭りがあるけれど」
沢口京子
「ねえ、春香、西陣の実家で何とかならない?」
春香は華音を見た。
「そういう資料は、華音の実家にあるかも」
佐藤美紀
「天平人の服装、好きなの、着てみたいなあ」
深沢知花
「それを着て、全員で歌を詠み、解説したい」
華音は、また一つの提案。
「天平期のセットもあったほうがいいかな」
鈴村律
「白い壁、朱塗りの柱・・・」
長谷川直美
「五重塔は欠かせない」
沢口京子
「たおやかな白檀の香りもいいな」
花井芳香
「青い空に平城京大極殿」
深沢知花
「鹿さんも歩いているかな」
佐藤美紀
「そういうセットを作るの?」
志田真由美
「すごく面白くなってきた」
結局、二つの学園の女子高生たちは、どんどん結合して仲良しになっている。
いささかの不安を感じていた華音は、ようやく安心する。




