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華音のブログは、人麻呂に決定。

その日の授業も終わり、華音が文学研究会に出向くと、新聞部の高橋麻友が既に部室にいて、待ち構えている。

また、他の文学研究会の面々も、ほとんど部室にいる。


高橋麻友は笑顔。

「この間お願いしたブログのことだよ」


華音は、「ハッ」とした顔。

実は、忘れていたようだ。


高橋麻友は、グイと華音に迫る。

「でね、何を書いてくれるの?」


華音が少し考えて口に出したのは、意外なもの。

「和歌とその解説みたいなものに」

「できれば人麻呂」


文学研究会の長谷川直美が、「ほお・・・」とうれしそうな顔。

「そうね、人麻呂もたまにはいいかなあ」

「歌の聖だもの」


華音が、すぐに反応し、人麻呂の名歌を詠みあげる。

「近江の海 夕波千鳥 汝が鳴けば 心もしのに いにしへ思ほゆ」


佐藤美紀が、さっそく訳す。

「美しい夕焼けに包まれた琵琶湖の、静かな波が寄せては返す浜辺に、千鳥が鳴いている」

「こんな雰囲気で、千鳥よ、お前が鳴く声を聞くと、私の頑なな心も折れそうになる」

「そして、思い出すのは過ぎ去った、いにしえの日々・・・」


花井芳香はジンとした顔。

「うわーーー・・・浮かんでくる・・・すごくきれいな・・・琵琶湖の夕焼け」

「風が吹いて、波が立って、たくさんの鳥が鳴く」

「その鳴き声に、人麻呂さんは、かつての近江朝の繁栄を思う」

「すでに壬申の乱が終わり、都は移され、湖畔に立つ人なんて、ほとんどいない」

「美しい夕焼けの中で、湖畔を吹き抜ける風、そして風の音を感じながら」

「波の立つ様子や、波の音も哀愁に満ちて・・・」

「そのうえ、たくさんの鳥が、おそらく高めの声で鳴き騒ぐ」


志田真由美は、目を閉じている。

「映画のラストシーンみたいで・・・グッと来るね」

「さすが人麻呂さん、描く世界が大きい」


新聞部高橋麻友も、人麻呂の世界に魅せられたようで、声が震えた。

「あまり真剣に読んだこともなかったけれど、確かにすごいね」

「他にもたくさんあるの?」


華音が頷いていると、顧問の田中蘭が入って来た。

部長の長谷川直美が、報告。

「田中先生、まず華音君のブログが決まりました」

「人麻呂の歌だそうです」


田中蘭は、面白そうな顔。

「へえ・・・人麻呂ねえ・・・」

「ズシンと心に響く名歌ばかり」

「これは楽しみが増えました」


華音は、落ち着いた顔。

「奈良に旅行したら、人麻呂が歌を詠んだ場所とか、案内しようと思っています」

「万葉の旅になりますね」

「人麻呂さんも、喜ぶかと」


これには、部室内にいた全員が賛成の挙手。

部長の長谷川直美が、もう一つの提案。

「その縁のある場所で、全員で声を出して、詠みましょう」

「その方が、人麻呂さん、喜んでくれるかと」


この提案にも、全員が勢いよく、賛成の挙手となっている。


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