華音に不思議なお声、薬師如来の真言とともに青い霧に包まれる。
「華音」
華音は、鳴り響く不思議な音楽の中から、自分を呼ぶ声を聞く。。
「はい!華音です、こちらに」
華音は、いよいよ、浄土に迎えられるのだと思った。
残して来た世界、残して来た人々に愛惜が無いと思えば嘘になる。
しかし、今、自分が浄土に迎えられるなら、それが御仏の御意志。
素直に、次の言葉を待つ。
鳴り響く不思議な音楽は、少しずつ小さくなる。
その中で、再び「華音」と呼ぶ声が大きく聞こえた。
実に滋味あふれる、おだやかな声。
それでいて、身体に芯を通されるような力強い声。
華音は姿勢を正した。
いよいよ、これから浄土へ、人として生きる使命を終えたのだと思う。
だから、胸を張った。
せめて浄土の門をくぐる際には、姿勢を正そうと思った。
「そうではないよ、華音」
再び声が聞こえた。
華音は困惑する。
「いったい、どういう意味なのか」
「ここは、その世界ではない」
声はおだやかなまま。
華音は、何もわからず、もはや声もだせない。
ここが浄土への入り口でなければ、どこと言うのか。
「オンコロコロ センダリマトウギ ソワカ」
声は華音がよく知っている薬師如来の真言を唱えた。
華音は身体の中の芯が熱くなることを意識する。
「華音、ここはその世界ではないよ」
声は、再び同じことを言う。
華音は、もはや何もわからない。
ただ、その「声」を聞くだけ。
華音の頭上高くから、青く透明な霧が降りてきて、華音を包み込む。
「オンコロコロ センダリマトウギ ソワカ」
「オンコロコロ センダリマトウギ ソワカ」
・・・・
青く透明な霧の中で、再び薬師如来の真言が続く。
華音は目の前にあった大宮殿が全く見えなくなった。
「どうなっているの?」
と思うけれど、身体を包む青い霧は、実に心地よいし、身体の中の感じたことのないような熱さも、同じく心地よい。
華音は、途中から気づいた。
「青い霧は、実に厚い」
「でも、その先が何も見えないわけではない」
「青い空も白い雲も見える」
そして驚いた。
「富士山が見える・・・どうして?」
その驚いた反動で、下を見ると江の島海岸、もう少し目を凝らすと長谷の大仏が見える。
「僕は雲の上に浮かんでいる?何故落ちない?」
華音は疑問に感じるけれど、落ちることはないようだ。
華音が首を傾げる中、少しずつ華音を包んでいた青い霧は、下に降りていく。




