永田町で大事故発生(2)薬師如来の瑠璃光
「あそこ?」
華音には、すぐに三歳くらいの女の子の父の「場所」を把握したようだ。
華音の示す指の先を見て、再び女の子が泣き出す。
「うわーん!おとうさーん!おとうさーん!」
華音は女の子を抱きかかえたまま立ち上がり、柳生隆とその「場所」にダッシュした。
「う・・・これは・・・」
その「場所」につくなり、柳生隆はうめいた。
白の乗用車が大破、裏返しで窓ガラスも全て割れている。
人形を抱いた女の子は、その窓から必死に助けを求めようと出て来たらしい。
そして、運転席にはハンドルを握ったままピクリとも動かない男性。
頭からかなりの血を流していることから、衝突時のショックもかなり大きなものと想定される。
華音は、女の子と一緒にしゃがみ込み、運転席をのぞく。
「ねえ、あの人がお父さん?」
しかし、女の子は、口がワナワナ震えているだけ。
やはり再び見た父親の血まみれ姿が、衝撃で辛いようだ。
その女の子の背中を華音が、やさしくなでた。
「大丈夫、お嬢ちゃん、絶対助ける、お兄ちゃんに任せて」
その女の子の前に、柳生隆も座り込む。
「大丈夫、このお兄ちゃんは仏様だよ、お父さんを救うよ、信じていい」
小久保スタッフと小島スタッフも華音たちを見つけて歩いて来た。
小久保スタッフ
「とにかく車を持ち上げて」
小島スタッフ
「女の子は私たちが抱っこするから」
また井岡スタッフと橋本スタッフは何やら工具らしきものを台車に乗せ、到着。
その時点で、華音と柳生隆には、何の言葉もない。
二人して裏返しになった乗用車の両サイドに立ち、ゆっくりと乗用車を持ち上げ、地面の隙間を開ける。
それを見て、井岡スタッフと橋本スタッフが持ってきたシートのような工具を、その隙間に広げ、付属の機器のスイッチを押す。
橋本スタッフ。
「持ち運びできる超強力ジャッキだよ」
その言葉の通り、裏返しの白い乗用車はシートの上で、ゆっくりと持ち上がる。
そして、両側で乗用車を支えていた華音と柳生隆は、その手を離し、運転席に。
井岡スタッフの緊張した声がかかる。
「とにかくゆっくり、慎重に」
華音も慎重。
「はい、まかせてください・・・ドアは開くようです」
華音がゆっくり慎重にドアを開けると、流血はなはだしく意識を失った女の子の父親が、華音に倒れかかってくる。
小島スタッフがうめいた。
「これは・・・事故の衝撃と流血で心肺停止?」
小久保スタッフは必死に父親を見つめる女の子の目を、その手でふさぐ。
「大丈夫、なんとか、あのお兄ちゃんがするけれど、今は目を閉じていてね」
その小島スタッフの言葉が終わると同時に、血まみれの父親を抱く華音の身体に異変が起きた。
その華音の身体を見て、柳生隆の背筋が伸びる。
「華音の身体全体に、瑠璃光のオーラ」
「まぎれもなく、薬師如来の御光」
「それにしても・・・なんと・・・清らかな・・・」
他の柳生事務所のスタッフも、華音から出る薬師如来の瑠璃光のオーラに見とれ、そして震え、声が出せない状態。
そんな状態が、数分続いた時だった。
華音のやさしい声が女の子にかかった。
「お嬢ちゃん、お父さんは、もう大丈夫だよ」
女の子は、小久保スタッフの手を振り払い、父親と華音に向かって走り出す。




