格闘系先輩男子たちの威嚇vs華音
大柄な先輩男子たちが、廊下を歩く三田華音と雨宮瞳の前に、立ちふさがった。
そして、その中の一人が、声をかけてきた。
「おい!お前、三田華音だろ?」
その言い方も、少し威嚇するようなトゲがあるような雰囲気。
また、一緒に歩いてきた他の先輩男子たちの表情も、挑むような顔、あるいは薄ら笑いのような顔、どっちにしろ、友好的なものではない。
三田華音は、ゆっくりと頭を下げて
「はい、三田華音と申します、昨日、本校に転校してまいりました」
と、まずは自己紹介。
その声も、いつもと同じ、冷静沈着。
すると、声をかけてきた先輩男子は、気に入らない様子。
そして、いきなり怒ってきた。
「おい!なんで、昨日のうちに、俺たちに挨拶に来ない!」
「テニス部の一件は聞いた」
「だからと言って、来ない理由があるのか!」
「俺たちをなめているのか!」
「中学日本一が、それほど偉いのか!」
雨宮瞳は、その言葉に呆れた。
「なんで、行かなければならないの?」
「行く理由って、そもそもあるの?」
「たとえば、華音君が剣道部とか格闘系の部活に入るとか、そんな気持ちならわかるけれど」
「それに昨日は、テニス部のことで、そんな状態でなかった」
「・・・どう見ても、言いがかりだね」
不穏な様子を察したのか、沢田文美たちが、かけつけてきた。
そして、大柄な先輩男子たちに、抗議をしはじめた。
「先輩!そんなことを言われても、華音君は転校してきたばかり、校内見学もできていない、そのうえ、昨日は私の怪我もあって、治してくれたんです」
「それに、どこに華音君が、挨拶に行かなければならない理由があるんですか?」
「例えば、華音君が剣道部に入るとかって話なら、そうですけれど」
沢田文美は、そこまで抗議してから、華音の顔を見た。
「ねえ、華音君、剣道部とか、格闘系の部活に入る気はないんでしょ?」
「文化部系の部活志望なんでしょ?」
沢田文美も、いつのまにか、華音の「文化部系部活志望」の情報を仕入れている様子。
華音も、笑顔で頷いている。
雨宮瞳は、それで少々ホッとした。
やはり、そういう抗議をしてくれるのは、一年生の自分ではなく、先輩でテニスの都大会でも優秀な実績をあげている先輩の沢田文美のほうが、説得力がある。
そして、沢田文美が、それを言ってくれれば、格闘系の男子先輩も、少しは変るだろうと思った。
・・・が・・・しかし、そうではなかった。
華音に声をかけてきた先輩男子が、顔を真っ赤にして、怒鳴りつけてきた。
「何だと?文化部系の部活?」
他の先輩男子も騒ぎ始めた。
「おいおい!ふざけんじゃねえ!」
「何で、そうなるんだって!」
「男だろ?お前!」
「最低でも、運動部ってのが当たり前じゃねえか!」
「なめてんのか?」
・・・・・・・・・
こうなると、おさまりがつかないと思ったのだろうか、ずっと黙っていた華音が、いつもの柔らかな笑みを浮かべて、話し出す。
「はい、先輩方、疑問に思うのも、当然かもしれません」
「それについては、後々、挨拶に伺った時にでも、ご説明をさせていただきます」
「さて、もうすぐホームルームの時間になると思います」
「一旦は、教室に入りたいと思うのですが」
雨宮瞳は、また、少し驚いた。
不思議なことに、いきり立っていた先輩男子たち全員が、華音の話に、吸い込まれてしまっているのである。




