VS柔道部顧問小川(4)
吉村学園長は、厳しめの顔のまま、華音たちを学園長室に迎え入れた。
その学園長室の中には、すでに柔道部顧問小川が座っている。
ただ、その表情が昼休みに華音に怒鳴り込んで来た時とは、全く異なる。
蒼ざめ、震えている。
どうやら、改まった場所が苦手らしい。
華音と萩原美香、田中蘭がソファに座ると、吉村学園長も座り、話しはじめる。
「まず、柔道部の小川先生、ことの経緯を説明してください」
柔道部顧問小川は、その時点で顔から汗、それも量が多い。
「はい・・・あの・・・華音君をどうしても柔道部に誘いたくて・・・」
「確かに華音君の文学研究会に入部していることや、あらゆる格闘系、運動部を含めて体育会系の部活には入らないという意志」
「それを認めた学園の方針も理解してはいたのですが・・・」
華音は、じっと柔道部顧問小川の顔を見ている。
柔道部顧問小川は、話を続ける。
「篠山が問題行為をして、華音君にも迷惑をかけて・・・」
「退学、そして警察の世話になってしまいまして」
「それも、私の指導と監督不足が原因ではあるのですが・・・」
吉村学園長が口をはさむ。
「小川先生、それはみんな知っています」
「そんな状況の中、どうしてあれほどの高圧的な、強引な態度を取ったのか、それを知りたいのです」
しかし、柔道部顧問小川は、そこからの口が重い。
「うーん・・・」
「大会が近くて・・・選手で篠山クラスの実力者がいなくて・・・」
「何とかならないかなあと・・・無理やりとも思ったのですが・・・」
「つい焦って感情に走り・・・」
この柔道部顧問小川の答えでは、学園長室に集まった全員が納得できない。
しかし、柔道部顧問小川の言葉が続かない。
学園長室が、そんな重い雰囲気に満たされるなか、黙っていた華音が口を開いた。
「小川先生、僕のことでお困りのようで、申し訳ありません」
華音が、そこまで言って頭を下げるので、柔道部顧問小川、萩原美香、田中蘭も驚いたような顔。
どう考えても、「問題のある言動」は柔道部顧問小川なのだから。
ただ、吉村学園長だけがクスッと笑みをもらす。
華音は再び柔道部顧問小川に頭を下げ、言葉を続ける。
「小川先生自身、無理やりをしなければならない理由があると思うんです」
「すごく焦った表情で教室に入って来られましたし」
「その無理やりにとか、焦らせる理由が他にあると思うんです」
「大会には、柔道部ではない僕が出なくても、篠山さんの次に強い人を選手にすればいいだけのこと」
「そんなことなど、小川先生は知っているはず、でも、そうはできない理由、焦らせて強引な態度を取らせる理由があるはずと思うんです」
華音の「至極当然な丁寧な」言葉のたびに、柔道部顧問小川の肩が、ビクッと動く。
しかし、言葉はまだ出ない。
華音は、そんな柔道部顧問小川の目をじっと見た。
そして、実にやさしい声をかける。
「小川先生、本当に言い難いことなのですが・・・」
柔道部顧問小川が、華音を見ると、華音は慎重に言葉を口にする。
「もしかして・・・小川先生自身の理由というよりは・・・」
その言葉で柔道部顧問小川の肩が、大きく震えた。
華音は落ち着いて言葉を続けた。
「誰かの影響ですね、きっと・・・誰かに強要されたか、僕を大会に出さないと困る事情か」
「そうなると僕というよりは、小川先生のほうが誰かに脅されている、脅されるべき理由があるのでは?」
柔道部顧問小川の肩が、ますます震えている。




