母好子の不思議な言葉
瞳は母好子に尋ねた。
「ねえ、それはそれはって、何なの?」
すると母好子は、うれしそうな顔のまま。
「そうねえ、いつか、ゆっくりと教えてあげる」
「なかなか、理解できないことかもしれないけれど」
「とにかく、不思議なことが起こると思うよ」
瞳は、ハッとなった。
「もう、起きてる」
「先輩のひどい捻挫を治したり、顧問の長年の腰痛を治したり」
ついつい、学園で起きた事実を報告してしまう。
母好子は、それを聞いて、またうれしそうな顔。
「へえ・・・さすがねえ・・・」
「ふむふむ・・・顔見たくなってきた」
そして、瞳の顔をじっと見て笑う。
「瞳なら、恋しちゃうかもね」
瞳は、「え?いきなり?」と思うけれど、顔が真赤。
母好子は、また笑う。
「ほらーーー!図星」
「ほんと、わかりやすいなあ」
瞳はムッとした。
「母さん、からかわないで!」
「それに、それじゃ、華音君のこと、さっぱりわからないって!」
「しっかり教えて!そうじゃないと困る!」
ついつい口調がキツクなる。
しかし、母好子は、笑顔を崩さない。
そして聞いてきた。
「ねえ、華音君のお昼は、もしかしてお弁当?」
「それも、柿の葉寿司とか?」
ムッとしていた瞳は、目が丸くなった。
「えーーーー?母さん!何でわかるの?」
母好子は、質問に応えなかった。
そして、笑いだしてしまった。
「あはは!そうなんだ、柿の葉寿司ねえ・・・やはりねえ・・・」
「きっと鮭と鯖かな」
瞳が、またしても目を丸くすることになったけれど、母好子はうれしそうに笑うだけ、「華音についての話」は、それ以上は教えてくれなかった。
結局、瞳は「何さ!あの秘密主義!」とブツクサ言いながら、自分の部屋に戻ったのである。
「それでも・・・」
ベッドに腰掛け、瞳は、いろいろと考える。
「母さんは、ずっと笑顔だった」
「不思議なことが起きることも知っていた」
「柿の葉寿司のお弁当も、鮭も鯖も知っていた」
「・・・そもそも、三田華音の名前で、表情が変わっていた」
「となると、何らかのことを、そもそも知っているということになる」
「奈良ねえ・・・」
「薬師寺・・・唐招提寺・・・うーん・・・」
瞳は、よくわからない。
そこで思った。
「となると・・・明日、華音君に教えてもらえばいいのかな」
「うん、それがいいなあ」
「そう思うと、話題づくりの第一歩だ」
「そもそも、華音君の隣の席は、この私だ」
瞳の顔が、明るくなった。
「はぁーーー・・・これこそ役得・・・ふふ・・・」
瞳は、うれしくて仕方がなくなっている。




