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華音の不思議な説法

華音からの目の合図を受けて、根津ホテルマンがリモコンで何らかの操作をすると、鉄格子の壁全面が真っ白な壁に変化した。


華音は、言葉を続けた。

「もし、あなた方が、今、こんな状態にならなければ、何をしていたのかを思い浮かべてください、目を閉じて」


旧国鉄系テロリスト集団が怪訝な顔で、目を閉じると、まず感知したのは、救急車と消防車が走り回る音、とにかく大喧噪の様子。


男たちに、目を閉じながら動揺の表情を浮かべる者、高笑いをする者がでてきた。

「何?警察が、吉祥寺駅の炎上は失敗したって、言ったじゃねえか!」

「どういうことだ!」

「は?警察のハッタリさ!今は吉祥寺駅が大混乱だろう」

「あれほど綿密な計画が失敗するわけがない」


次に救急車と消防車のサイレンの音に混じって、人々の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。


「きゃーーー!服に火が!」

「熱いよーーーお母さん!助けて!」

「逃げろ!爆発があちこちで起こっている!」


その泣き叫ぶ声を聞いて、テロリスト集団の男たちは、ますますうれしそうな顔。

「は!成功だぜ!」

「ざまあみろ!これが暴力主義革命の第一歩だ!」

「これで政権打倒の足掛かりができた」


喜色満面のテロリスト集団の男たちに、華音が再び、静かに話しかける。

「目を閉じて、思い浮かべてみてください」


「もし、あの服に火がついた人」

「熱いと、お母さんに泣きつく女の子」

「爆発から逃げる男の人」

「そんな苦しみと恐怖に包まれて逃げ惑う人々」


華音の声が深い哀しみを帯びている。


喜色満面のテロリスト集団の男たちが、不思議に真顔に変化した。


華音の声が湿った。

「その中に、あなたたちの奥様、娘様、息子様、お父様、お母様・・・」

「そんなあなたたちに、関係の深い方々がおられても、笑顔を見せられるのですか?」

「政権打倒とか、暴力主義革命は、そこまで非道なことも認められているのですか?」


華音の言葉と同時に、テロリスト集団の男の表情に、再び動揺が走った。


「う・・・何故・・・女房の顔が見える?」

「うわ!娘の制服に火がついて!」

「ひどい火傷・・・いや、全身が燃えている」

「あれは・・・孫だ・・・あ!群衆に踏みつけられ、頭を蹴飛ばされ・・・」

「あ・・・母さん・・・押し倒されて・・・血だらけ・・・」


華音は、また静かに、言葉を続ける。

「あなたたちが、しようとしたことを思い出してください」

「その刀と銃を持って、苦しみ、逃げ惑う人に何をしたかったのか」



テロリスト集団の男たちのまぶたが、再び、自然に閉ざされた。

そして、凄惨にして悲惨な情景がまぶたに浮かぶ。


自分たちは、「暴力主義革命」と叫びながら、苦しみ、逃げ惑う人々に、容赦なく刀を振るい、銃を乱射、死傷者は夥しく、吉祥寺駅はまさに血の海。

そして、横たわる死傷者に、笑顔で近づき、その中に、自らの血縁者、知人を見つけ、身体を震わせ続ける。


華音は、再び、テロリスト集団の男たちに尋ねた。

「あなたたちは、こんなことが、やりたかったのですか?」

「こんなことが、あなたたちの目指す理想の世界なのですか?」

「こんなことをして、幸せなのですか?」


華音の質問が決め手だった。


テロリスト集団の男たち、全て力なく、ヘナヘナと座り込んでしまった。


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