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VS柔道部副主将篠山(5)華音の床掃除、篠山の涙

華音がモップを使って床掃除を始めたのを見て、3年生たちは慌てた。


「あ!華音君!いいよ!僕たちの教室だから」

「そんな、喧嘩をおさめてもらって、申し訳ない」

「華音君には何の非も無いんだから」


華音は、それでも濡れモップで丁寧に、床掃除を続ける。

「いえ、掃除は好きなんです」

「きれいになると、心もスッとなるって感じなので」


3年生たちは、目を丸くしたり、感心したり。

「それはそうだ」

「あまり気にしたことはなかったけれど」


他にもモップを持って来たり、ホウキとちり取りを持ってくる3年生も出始めた。

そして、華音に協力するかのように、掃除をはじめた。


「たまにはいいかなあ」

「喧嘩の邪気払いさ」

「確かにきれいになるのは、気持ちがいい」

・・・・


それに加えて、雑巾で窓を拭く人まで出てきた。


結局は、そのクラスの全員が、掃除用具を持ち、何らかの教室美化に取り組んだのである。



さて、華音に「視線で制されてしまった」篠山は、学園長、柔道部顧問、空手部顧問と学園長室まで歩く廊下で、相当な違和感を感じている。


「マジで、華音の正論と目線が怖かったのは事実」

「超真っ直ぐの正論」

「痛いくらいの視線で」

「確かに、何が面白くて、剛をイジメて、ペットボトルを投げたのか」

「おまけに、後ろからチョークスリーパーか」


少し冷静に戻ると、今後のことが不安になった。

「これは厳罰だなあ、下手をすると退学、あるいは処分程度かなあ、自宅謹慎とか、まずいなあ」

「親父に知られると・・・」


PTA役員、区議会議員の父の顔が浮かんだ。


「もみ消すって言ってもなあ・・・」

「証拠もなにも、クラス全員の前だ」

「世間の噂にでもなると・・・」

「親父の顔に泥?」


篠山は、それを思うと、足が震えて来た。


「どう言って、親父を誤魔化そうか」

「華音のせいにする?」

「・・・華音は、俺に何もしていないって・・・」

「むしろ、助け起こされたくらいだ」


もちろん首を絞めてしまった剛に、「自分を弁護しろ」などは、絶対に言えない。

少し離れて歩く剛は、ブスっとして歩いている。

とても「ごめん」と言って、すむ程度の話ではないと、篠山自身が思う。


篠山は、うなった。

「うー・・・絶体絶命か・・・」


また、篠山を見る他の生徒の視線も痛い。

「マジ、顔もあげられない・・・」

結局、篠山は、顔を下に向けて歩く。


その耳に、後ろから、ヒソヒソ声が飛び込んで来た。

「ねえ、篠山さんがね、剛さんにペットボトル入りのコーラを投げて、そのまま後ろから首を絞めたんだって」

「それでね、華音君が出向いて、不思議におさめたんだけど」

「華音君ね、篠山さんが学園長とかに連れていかれた後、床掃除をはじめて、それに3年生の同じクラスの人も、全員掃除を始めたんだって」


篠山は、ここで「完全に負けた」と思った。

そして、そう思った途端、涙が出て来てしまった。

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