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初めての○○~見学編~

 ランドマルクを出発して数日、当初の予定通り島の南東にあるポートランドを目指し移動を続けていた海斗達一行。その道中、何度か魔物に襲われる場面に出くわしたが、その度に訓練の一環ということで海斗がまず一人で戦闘し、危険と判断した場合はガイが手助けをしていた。その甲斐あってか、海斗も次第に剣の扱いに慣れていったが、それに比例するように、若干一名機嫌を損ね続けている人がいた。

「私も魔物と戦いたい、戦いたいぃぃい!」

 ポートランドへ向かう道中、何度目かの魔物との戦闘を終えたところで、ついに我慢できなくなったのだろう。まるで駄々っ子のような声をアスナが上げた。

 対して、数歩前を歩いていたガイは足を止め、ついにこの時が来たのかと重いため息を吐いた。

「あのなぁ姫さん。前にも説明したが、アンタは基礎だけはしっかりできてるが、カイトは剣を扱うことすらまだまだままならないひよっこなんだ。だから、まずはカイトに実戦経験をより優先的に積ませてだな」

 ガイがそこまで口にした瞬間、なるべく我関せず事の成り行きを見守ろうと思っていた海斗は、背筋に寒気を感じた。そして、その寒気が現実のものとなる。

「ねぇ、カイト」

「お、おう。なんだアスナ」

「アナタも連戦続きで疲れているし、そろそろ休みたいでしょ?」

 事情を知らない人が見ると、見惚れてしまうような輝かしい笑みを向けてくるアスナ。けれど、海斗の目にはしっかりと見えている。アスナの背後に、有無を言わさぬ圧力がゴゴゴゴゴッと渦巻いているのを。

 そして逡巡し。

「……そ、そうだな」

 結局はアスナの気遣い、もとい圧力に屈した海斗は頷くことしかできなかった。

「おいカイト。別に姫さんの言うこと聞いてやる必要はねぇんだぞ」

「いや、まぁそうなんだけど。アスナって魔法使うんだろ?」

「ふふん、そうよ。何たって大賢者様だもん」

 これでもかというぐらい得意げに胸を張るアスナ。そんな少女を二人は無視し。

「で、カイト。魔法がどうした」

「いや、一度でいいから魔法の使われるところ見てみたいなと思って」

 海斗がこの世界にやってきて早五日。全戦闘を海斗自身と、稀に手助けでガイがやっていたからか今のところ一度も魔法というのを見れていないのだ。

「この先、もしも魔法を使うような敵に出くわした時に慌てたくないし。今のうちに、魔法について知っておくのもありかな思うんだけど」

 それともらしい言葉であるが……全くの虚言だった。やはり見れるのなら魔法という物を見てみたいと思うお年頃なのだ、男子高校生というのは。

 しかし、そんな海斗の内心には気づかず思案するガイ。そして、そんな中年に期待のまなざしを向ける十代の少年少女。

 やがて、ガイは諦めて両手を上げた。

「分かった。まぁ、確かに海斗の言い分も一理あるしな」

「じゃあ!」

「おう。次に魔物が現れたら、姫さん、アンタが相手をしてみろ」

 喜色満面。喜びを隠すことなく、その場で飛び離れるアスナ。そんな少女の姿を、幼いころから見てきたガイはやれやれと眺めた。

 その後数時間、魔物との遭遇はなかったが、ついにその時が来た。

 進行を続ける三人の前に、三匹のオオカミが躍り出てきたのだ。

 二メートル近い体長に、灰色の体毛。ただし、胸元だけ赤色に染まっている。その姿を見て、ガイはわずかに顔をしかめた。

「おい、姫さん。こいつ等ガルムだ。今までカイトが相手にしていた魔物達より一段強い。気をつけろ」

「へー。じゃあ、私のデビュー戦にはちょうどいいってことね」

 ガイの進言を適当に聞き流しながら、二人の一歩前に出て、アスナは魔法の杖ケリュケイオンを体の前で構えた。

「さぁ、いらっしゃい可愛いわんこちゃんたち。この大賢者様が相手してあげる」


「さぁ、いらっしゃい可愛いわんこちゃんたち。この大賢者様が相手してあげる」

 どこから湧いてくるのか理解不能な自信にあふれているアスナを目の前にし、気を引き締めるガイ。そんなガイの緊張を感じ取ったのか、ブラウメールの柄に手をやりながら海斗がそばによる。

「なぁ、オッサン。あの魔物そんなにヤバいのか?」

「いや、ガルム自体はそこまで強くねぇよ。問題なのは相性だ」

「相性?」

「素早く、そして接近戦を仕掛けてくる魔物に対して魔法使い単体での戦闘は向いてねぇんだ。魔法を使うには、どうしてもタイムラグがあるみたいだからよ」

 そんなガイの危惧通り、三匹のガルムが一斉にアスナに向けて突進し、あっという間に距離を詰めてきた。けれどアスナは身動きをとる気配がない。

「おい、姫さん!」

 心配になったガイが堪らず声を荒げ、駆け寄ろうとする。けれどそれに気づいたアスナが、視線はガルムたちに向けたまま掌をこちらに向け、ガイを制止する。

「心配しないで。こういう状況の対処の仕方も、お父様に嫌というほど教え込まれたから」

 アスナが得意げにそう言い放ったのと、ほぼ同時だった。ケリュケイオン上部の装飾部分が光ったと思った瞬間、ガルムたちの動きが極端に鈍ったのだ。それこそ、まるで老人が歩くような速度まで。

 それを目の当たりにし、思わず感嘆の声を上げるガイ。

「ほう、やるじゃねぇか姫さん」

「え、何。何が起きたんだ?」

 対して、目の前で起きていることが全く理解できていない海斗は目を丸くした。

「姫さんは、無属性魔法のディレイを使ったんだ」

「無属性? ディレイ?」

 初めて聞く単語ばかりで頭の上にいくつもクエスチョンマークを浮かべる海斗。はてさて、なんて説明したらいいものかと思案するガイだったが、前方の先頭に変動があり、二人の意識がすぐにそちらへ向かった。

「まぁ、とにかくだ。姫さんは、初手で攻撃することを捨ててディレイという魔法で素早さに優れるガルムたちの隙を作ることに専念した。そして」

 素早さで優るようになったアスナはそのまま後退してガルムたちから距離をとり、ケリュケイオンを頭上に掲げた。

「火の精霊サラマンダーよ。悪辣者に聖なる炎の鉄槌を下せ」

 何やら呪文のようなものを口ずさむアスナ。それと同時、ケリュケイオンの上空にピンポン玉くらいの大きさの火の玉が生まれた。それは次第に大きくなり、バスケボールくらいの大きさ、そして、最終的に直径五メートルほどの巨大な火炎球となった。

「バーン・メテオライト!」

 振り下ろされるケリュケイオン。と、同時。火炎球――バーン・メテオライトがガルムたちに向けて放たれた。

 危機と判断したガルムたちは、反転して逃げようとするが、遅くなったその速度では間に合わない。ガルムたちは、甲高い断末魔を上げ飲み込まれた。

 火炎球が消える。すると、ガルムたちが先ほどまでいた場所にはその姿はなく、辺り一帯が焼け野原と化していた。

「ったく、あのおてんば姫が。調子こいて威力の高い魔法を使いやがって」

「すげぇ、これが魔法……」

 その様子を後方で見守っていたガイは、無茶苦茶な戦い方に頭痛を覚え、そして海斗は目を輝かせている。

 これが、海斗がこの世界で初めて魔法を目にした瞬間だった。   

 

 



 

 


 

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