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初陣

 サウスヴァング城周辺に鬱蒼と茂る森林。そこを抜けた先にある平原。

「よしお前ら。ここまでは森の魔除けの結界内をうまく通ってきたが、ここから先はそんなものはない。つまりは魔物が出てくるかもしれねぇ。せいぜい死なねぇように気をつけろよ」

 城を後にした海斗たち一行は、ガイを先頭にしてそこまで歩を進めていた。

 ガイのその言葉に、海斗は前日の豚の化け物のような化け物を思い出した。あの時は助けを求めるアスナの姿があまりにも雪奈と被ったために、思わずその前へ躍り出た。けど、次またあんな化け物を目の前にした時、ちゃんと動くことができるだろうか。まぁそもそも、あの時も恐怖にかられ目を閉じてしまい何もできなかったが。

 海斗がそう考えこんでいると、右わき腹が何かでグイグイつつかれた。

 何かと思うと、なにやらニヒヒと意地の悪そうな笑みを浮かべ、アスナが肘で小突いてきていた。

「何アンタ、そんな険しい顔してビビってんの?」

「べ、別にビビってねぇし」

「ふふん、安心しなさい。この大賢者アスナ・サウスヴァング様がいるんだから、魔物の一匹や二匹ぐらいどうということないわ」

 そう口にし、得意げに胸を張るアスナ。

 その様子に少々カチンときた海斗は視線をずらし、

「あんだけバカでかい悲鳴上げといてよく言うな」

 ぼそっと呟いた。

 けれど、それを耳にしたアスナは顔を真っ赤にし、

「あれは仕方ないじゃない。初めて生きた魔物見たから気が動転し――っ痛った!」

 言い争いが始まろうとしたところで、ゴツンっという景気のいい音と共に、二人の頭部に拳骨拳骨が落ちた。

「気をつけろって言った矢先に、なにじゃれ合ってんだこのガキども!」

「痛ったいな! 何すんだよオッサン」

「そうよ。姫に向かってなんてことするのよ」

 こぶのできた頭部をさすりながらブーブー不平を漏らす二人を、拳骨の主、ガイの怒号が一喝する。

「まずは姫さん。アンタの魔法の腕は確かに大人顔負けだけど、ただそれだけだ。覚悟も何もねぇ。だからいざ本物を目の前にしたら、昨日みたいなことになるんだよ。それから」

 そこまで口にしかけた時だった。ガイは突如として口を閉ざし、ただでさえ鋭い目つきだが、その相貌がさらに鋭く細くなった。

「オッサン? どうし」

「黙れ。近くに一匹いやがる」

 ガイの様子が豹変したことを不審がっていた海斗とアスナだったが、その一言に、顔が引き締まる。と、その時だった。三人の近くの草むらからガサガサと音がし、それが姿を現した。

 見た目は大蛇。ただし草むらから顔を出しても、それでも一部だけで、その体のほとんどは草むら内に隠れている。そしてその胴体は大人の太もものように太く、毒々しい紫色の皮膚をしている。

「ヴェノムサーペント。巻き付いて絞め殺してくるか、噛みついてきたときに、その牙から分泌される猛毒で仕留めてくるだけの魔物だ」

「だけって……」

 簡単に言ってのけるガイに、言葉を失う海斗。すると、その背中をポンッと押された。

「と言うわけだ。ちょっとやってみろ」

「は? いや、いきなりすぎんだろ」

「そうよ、ずるいずるい! 私だって魔物と戦ってみたいのに」

「姫さん、アンタの魔法のスキルは基礎がしっかり身についているから急ぐ必要がねぇ。それと、カイト。何もいきなり一人で倒しきれって言ってねぇ。ヤバそうなら手伝ってやる。まずは死なないことを優先にしてやってみろ」

「そうは言っても」

 説明を受けても依然として戸惑いを隠せない海斗。けれど、魔物がそんなことを気にしてくれるわけもなく。有無もなく、地を這い海斗に向かって襲い掛かってきた。 

 こうなったらもう、うだうだ言ってる場合ではないか。

 覚悟を決め、海斗は魔物――ヴェノムサーペントと向き合い、体育の授業でやった剣道を思い出し、ブラウメールを正眼に構える。

 近づくヴェノムサーペント。対して海斗はタイミングを見計らい、ブラウメールを振り上げ、そして振り下ろす。けれどその切っ先は、鱗に阻まれ弾かれた。

 鱗が思ったより硬い!? いや、それとも斬撃が弱か――

「バカ野郎、止まるな!」

 思考の渦にとらわれかけてた海斗に、ガイの怒号が届く。気付くとヴェノムサーペントが懐まで入り込み、海斗に噛みつこうと鎌首をもたげていた。

 防ぐのは、間に合わない。

 とっさにそう判断した海斗は右に横っ飛び、致命傷になりかねないその一撃を寸前で回避。

「おら、一撃避けただけで安心すんなよ。すぐ起き上がって大勢立て直せ」

「んなこと言われなくても」

 ガイから飛ぶ指示に応じながら立ち上がり、再度体勢を立て直す。するとヴェノムサーペントもまた、体制を戻し海斗へ向かて再度襲い掛かってきた。

 まるで巻き戻ししたかのような、先程と同じ状況。けれど今度は、海斗はブラウメールを振るうことなく、迫りくるヴェノムサーペントから視線を外さないよう、正眼の構えを解き背走しだした。そうして、常に相手と一定の距離を取りながら考える。

 なぜ、さっきは斬撃が通らなかったのか、と。

 攻撃が通らなかった瞬間は焦りから、つい攻撃が弾かれたかと思ったが、本当にそうだろうか。今になって思い返せば、振るったブラウメールが鱗に跳ね返された感覚はなかった。どちらかと言えば、鱗に当たると同時に斬撃がぴたりと止まったといったほうが近いか。

「ってことは」

 ある可能性に気づいた海斗は足を止め、再度ヴェノムサーペントと向き合った。そしてブラウメールを上段で構えるのではなく、両手で握った柄を上にして頭上で掲げた。

 ふ―っと息を吐き、タイミングを見計らう。狙うのは、噛みつこうとヴェノムサーペントが鎌首をもたげた……

「――今!」

 懐に入り込んできたヴェノムサーペントが鎌首をもたげたまさにその瞬間、海斗は裂帛の気合と共にブラウメールを振り下ろした。

 鋭い切っ先が、ヴェノムサーペントの頭部を貫き、その勢いのまま地面へと突き立てられる。

「やった、のか?」

 串刺し状態になったヴェノムサーペントを前に、ブラウメールの柄から手を放して両掌を見る海斗。

 思えば、初めの一閃は距離感を掴めておらずリーチのギリギリ外で振ってしまったんだ。だからこそ、もちろんヴェノムサーペントの鱗が多少固いのもあったが、そこに当たるまでにはブラウメールをほぼ振り切っていて裂くほどの力が斬撃に残っていなかったんだ。結果、まるで鱗に阻まれたようになった。

 と、そんな時だった。絶命したかと思ったヴェノムサーペントだったが、頭部を串刺しにされたままその場でのたうち回りだした。

「げ、まだ死んでないのかよ!」

 どうする? このままとりあえず距離をとるか、ブラウメールを引き抜きとどめを刺すか。

 まさに一瞬の迷い。けれど、その僅かな迷いが戦場では命取りとなる。ヴェノムサーペントがその尾を持ち上げ、まるで鞭のように叩きつけてきたのだ。

 ――ダメだ、間に合わない。

 そう、覚悟を決めた瞬間だった。

 まず初めに耳に届いたのは、耳をつんざくような、鋭い風切り音。それに数拍遅れ、強烈な一陣の風が吹き、それに煽られ海斗はその場に尻餅をつく。するとズドンという音と共に、今まさに自分に叩きつけられようとしていたヴェノムサーペントの尾が、胴体から切断され地面へと落下した。

「……いったい何が?」

 驚き、周囲を見回す。

 すると数メートル離れたところで海斗の様子を見守っていたはずのガイが、アスナを数歩下がらせ、レイズから預かっていた先代勇者が使用していた剣を振るっていた。その状況で海斗は理解し、同時に驚愕する。

 斬ったというのか、剣を振るい発生した風で、あのヴェノムサーペントを。

「まぁ、とりあえずは合格といったところかな。良かったな、とりあえずは生きててよ」

 海斗が自身を見て呆然としていることに気づいたのだろう。ガイは無邪気な笑みを浮かべ、そう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

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