ボーイミーツガール4~少年の決意~
「アスナ。ガイ。そしてカイト。以上三名には、明朝より勇者捜索の旅に出てもらう」
国王レイズからのその指令に、海斗はいよいよ自分がおかしくなったのだろうかと思った。
学校のグラウンドにいたと思ったら、知らぬ間に森の中にいて、豚のような異形の化け物が現れ、挙句の果てには勇者だと?
これではまるで、漫画やアニメの世界だ。
そう困惑する海斗の様子に気づいたのか、
「すまないね、説明を省きすぎたみたいだ。まずはこの世界に伝わる伝承を聞いてほしい」
そう前置きをしたレイズは、勇者と賢者、そしてその二人を守る四聖の守護者にまつわる伝承を語り始めた。そして、その話を聞き終えた海斗は。
「いきなりそんなおとぎ話を信じろと言われても」
「残念だが、そう言うわけではないんだ。何せ二十年前に勇者、賢者、四聖の守護者が召喚され、この世界の協力者たちとともに魔王を封印したのだからな」
そう口にしたレイズは、どこか懐かしそうに眼を細めた。
けれど、依然として信じきれない海斗。ここまで詳しく話をされては、多少の信憑性はあるが、やはり依然として突拍子もない話が過ぎるのだ。
すると、今まで事の成り行きを見守っていたガイが口を開き、
「竜宮愛」
不意に一人の名前を口にし、その名前を耳にした海斗は目を見開き驚愕した。
「どうして、アンタが母さんの名前を……」
「当たり前だ。アイツもまた、二十年前魔王封印の際に共に戦った四聖の守護者の一人だからな」
「――は?」
もはや開いた口が塞がらないとはこのことだ。
母さんが元四聖の守護者だと? いきなりそんなこと言われて、信じられるはずない。けれど、ならこの人たちが母さんの名前を知っている理由をどう説明する?
「彼女もまた共に戦い、魔王を封じた後、一人の男と恋に落ち子を身籠った。そして私たちは考えたんだ。遠くない将来、魔王の封印が破られた時のために何ができるか。そして出た答えが、元の世界への帰還」
「帰還?」
「そう。あの世界にも人間同士による争いや、それこそ事故や災害もあって必ず安全とは言えないけど、魔物の跋扈するこの世界で生きていくよりは幾分安全だから」
「そりゃ……まぁ、そうだろけど」
そう口にし、海斗は森の中で襲ってきた豚のような化け物のことを思い返した。
確かに、もしもあんなのがうようよいるんだったら危険極まりないが。
というか、この話の流れって……。
「そして今、アイツの血と力を継いだ次代の守護者の一人が、こうして俺たちの前に転移してきたわけだ」
「それってつまり……」
「あぁ。大体察しているとは思うけれど、魔王討伐よろしく頼むね。四聖の守護者、カイト・タツミヤ」
玉座の間でのやり取りから一時間ほど。海斗は侍女に連れられてある個室へとやってきていた。赤い絨毯に、天蓋付きのキングサイズのベッド。まるで海外高級ホテルのスイートルームかと言わんばかりの豪華さだ。
そんな豪華絢爛に落ち着かず、海斗はベランダに出て外を眺めた。
視界の先には森が広がっており、ほかに建物は見当たらない。日本にいては、やはり見慣れない光景に、嫌でもここが異世界だということを認識させられる。
「ホントに異世界、なんだよな」
ポツリとつぶやくと、ドアがノックされる音が。
はてさて。客人なんていったい誰だろうか?
あのアスナという少女か、はたまたガイとかいうガタイのいいおじさんか。
そんなことを考えながらドアを開けた海斗は、扉一枚隔てた先にいた人物を目にし、絶句した。
「やぁ、部屋は気に入ってくれたかな、カイト君」
そこにいたのはつい先ほどまで玉座にいた、国王レイズその人だった。
「ちょっと個人的に話がしたいんだけど、少し時間いいかな?」
「いや、俺は別にいいけど……って、いいんですか? 王様が護衛もつけずに一人で出歩いて」
「なに、心配いらないよ。これでも私、超強いから」
そう得意げに口にするレイズ。心なしか、玉座に座していた先ほどまでよりフランクになっている。
そんな国王の様子に、果てどうしたものかと考えこむ海斗。が、結論はすぐに出た。
「……まぁ、とりあえずどうぞ」
「ありがとう、話の早い若い子はいいね」
考えても仕方ないと諦めレイズを部屋に招き入れ、部屋の中央にあるテーブルをはさむように配置されているソファーに対面で腰を下ろす。
「それで、話って何ですか?」
「色々と急な話で混乱させてしまったんじゃないかと思ってね、私の時もそうだったからね」
「そりゃあ、まぁ……って、今なんて?」
「いや、混乱させてしまったんじゃないかと」
「じゃなくて、その後!」
「私の時も――って、あぁ、そうか。まだ言ってなかったね。私も君と同じ、日本の出身なんだ」
唐突な告白に、しかし海斗はそこまで驚かなかった。
言われてみれば、少々整いすぎている気はするものの、目の前に座る男はアジア系の顔つきに見える。それに、先ほどまでの玉座の間での会話。妙に母親のことを知っていると思ったが、目の前の男も同じだったとすれば得心がいく。
けれど、何だろうか。海斗はのどに小魚の骨が刺さっているような妙な違和感を感じた。
「二十年前、私は賢者としてこの世界に召喚された。そして、四聖の守護者として召喚された君の母親や、当時の勇者とともに魔王と戦い」
そこまで口にし、しかしレイズは顔を曇らせた。
「――倒すことができなかった」
「負けたってことですか?」
「いや、負けてはいないよ。倒しきることが、消滅させることができなかったんだ。結果、最悪を回避するために、封印を施すことにしたんだ。そこから先は先ほど伝えた通り」
そこまで口にし、レイズは深々と頭を下げた。
「本来ならば私たち大人が果たさなければいけない責務。それをキミたち若い世代に押し付けることになり、本当に済まない」
まるで心の底から絞り出したような、悔恨に満ちた声。その様は、まさに一国の王としてではなく、一人の人間、レイズ・サウスヴァングとしての姿だった。
その姿を前に、海斗は己の心の内をもう一度整理する。
確かにこの状況には、未だに驚きを隠せない。けれど今になって思う。実感がないだけなのかもしれないが、魔王討伐の旅と言われても不思議と忌避感は湧かなかった。
いや、それどころか……
「どこまでできるかわからないですけど、やれるところまでは、頑張ります」
もしそれが成せたら、あの日、雪奈が死んで俺だけが生き延びてしまったことに意味を見出さるんじゃないだろうか。
こうしてこの日、一人の少年が魔王討伐へ旅立つ決意をした。




