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ボーイミーツガール3 ~二人の始まり~

「雪奈ッ!」

 巨大な斧を持った豚のような異形の化け物と、しりもちをついて身動きができなくなっている少女を前に、海斗は自然とそう叫び――何ら意識することなく、ほぼ反射のまま、少女と化け物の間に仁王立ちのように躍り出ていた。

 そうしてようやく理解する。

 あぁ、自分は何をしているのだろうと。

 今自分の身に起きていることは何一つとして理解できない。つい数分まで学校のグラウンドにいたはずなのに、気づけばこんな森の中にいて、終いには豚のような化け物まで現れる始末。

 まるで漫画の中のような事態。けれど、不思議と迷いはなかった。

 眼前まで迫る化け物。そして、そいつはニィッとまるで下卑た笑みを浮かべると右手に持つ斧を振り上げた。

 ダメだ、殺される――

 そう、覚悟した時だった。

「ったく、簡単にあきらめてんじゃねぇぞ!」

 そんな怒鳴り声が耳に届いた瞬間、ビュッという風切り音がしたかと思うと、化け物の体が真横に吹き飛んだ。

 何が起きたのか全く理解できず、目をぱちくりとさせる海斗。が、すぐに正気に戻り化け物の吹き飛んだ先に視線をやる。すると、それは横っ腹から槍に貫かれ森の大木に磔の状態になっていた。

「おいガキ共。何モンスターの前で揃って目ぇ閉じてんだ。仲良く餌にでもなるつもりだったか馬鹿野郎」

 投げかけられた叱責。その声の聞こえたほうに視線をやると、大柄な男がそこにいた。

 年の頃は三十代半ばといったところか。背が高く、アニメや漫画などでよく出てくる鎧を身にまとっているが、それでもわかるほど、よく鍛えられ引き締まった体躯をしている。

 その男が改めて海斗を目にし、正確には身にまとっているジャージを目にし、三白眼を大きく見開いた。

「お前、その服は――」

「ガイじゃない! 助かったけど、あんたこんなところで何してんのよ!?」

 鎧姿の男――ガイの言葉を遮るようにして、ついさっきまで腰を抜かしていたはずの少女が立ち上がり、海斗の脇を素通りして駆け寄っていった。

「ファブロクの爺さんに頼まれたんだよ。どこぞのおてんば姫を連れ戻してくれってな」

「あはは、それは大変だぁ」

 嫌味交じりなガイの言葉に、少女はあっけらかんと答えて見せた。けれど、その視線は地面を向き、両手で握られているドレスの両裾は皺が寄っていた。

 その様子を目にし、ガイはやれやれと内心溜息を吐きながら、未だ現状が呑み込めないでいる海斗に視線を戻した。

「おい小僧。とりあえず、お前ちょっと城まで来い」

「あ、はい。分かり――え?」


 重厚な扉から延びる赤いカーペットの先に数段の段差があり、その上に玉座がしつらえられたサウスヴァング城王の間。

 そのカーペットの中央で、今まで目にしたことのないその光景に海斗はまたしてもポカンと口を開けていた。

「よく来てくれたね、異界の者」

 玉座に座す一人の男から、海斗に声がかけられた。

 年の頃は森の中で出会ったガイと同じぐらいか。しかしこちらは体の線が細く、顔つきも柔和で、いかにも優男という言葉が似あう風貌をしている。そしてその身にまとっている服も、白を基調とした軍服のような衣服にマントと、爽やかさにあふれている。

 そんな男の言葉に、海斗は自らを指さし首を傾げた。

「……異界の、者?」

「うん、そうだね」

 男は頷き、

「君の纏っているその衣服、ジャージはこの世界には存在していないからね」

「ジャージが、存在しない?」

 確かに周りを見渡しても、みなドレスや甲冑などどこか中世ヨーロッパを感じさせるような服装をしている。

「そうだね。久しぶりに着たい気もするんだけどね」

「おい、王様。話それてんぞ」

 状況が呑み込めず戸惑っていると、海斗の隣にいるガイが口をはさんできた。

「おっと、これは済まなかったね。ではまず自己紹介しようか。私はこの国の王、レイズ・サウスヴァングだ。君の名前は?」

「海斗……竜宮海斗です」

「りゅう、ぐう?」

 海斗の名乗りに、驚きの声を上げたガイ。

 見ると、まるで生き別れの家族に会ったような顔をして海斗のその両肩に手を伸ばそうとしていた。

「ガイ。落ち着きな」

「……わりぃ」

 はっと我に返ったガイはバツが悪そうに視線をそらした。

 そんな臣下の様子にやれやれと苦笑いを浮かべたレイズは、海斗に視線を戻し。

「色々と突然なことで疲れたでしょう。今日のところは」

 レイズがそこまで口にしかけた時だった。不意に重厚なドアが重い音を立てて開き、一人の少女、アスナ・サウスヴァングが肩を怒らせながら入室してきた。

 髪は肩口で切りそろえられていた雪奈よりも長く背中あたりまで延ばされているが、気の強さを感じさせるつり目がちな瞳に、白い肌。やはりどう見ても――

「雪、奈?」

 口に仕掛け、はたと気づき海斗は自らの口を手で覆った。が、相手はそれを聞き逃してくれなかった。

 アスナはキッと鋭い視線を海斗に向けてきて。

「キミ。さっきから人の名前を何度も何度も間違えて。いい加減にしてくれない? 私にはアスナ・サウスヴァングという名前が」

「え? あ、悪い。知り合いにあんまりに似てたから」

「知り合いか。その子の名前は?」

 申し訳なさそうに口にした海斗に投げかけられた、意外な人物からの問いかけ。その問いの主、レイズに向き直り。

「雪奈。聖雪奈、幼馴染です」

「今、その子は?」

 あの光景が脳裏によぎり、静かに首を横に振る海斗。

 その様子に、意味をくみ取ったのだろう。どこか悲しげに

「そうか」

 ただ一言、レイズは静かにそう呟いた。

 それから誰も口を開くことなく重苦しい沈黙が流れる。そして、数分経った時だ。それまで何かを思案していたレイズはぱっと手を打ち、

「アスナ。ガイ。そしてカイト。以上三名には、明朝より勇者捜索の旅に出てもらう」

 そう高らかに宣告してきたのだった。





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