ラインの街 その2
ラインからガザンへと向かう道中にある森の中を、ある一台の馬車が走っていた。
前方座席にはルカと海斗が座り、ルカが御者を務めている。そして残りの三人は、行商用の商品と一緒に後方の荷台に乗車している。
「それにしても、本当に今回はありがとうございました。皆さんが付いてきてくださって、本当に心強いです」
「いや、別に俺たちは。どうせいざとなったらオッサンがいるし」
「ガイさんですか? 随分と信頼されているんですね」
「信頼っていうか、あの人が負ける姿なんて想像できねぇだけだから」
真っすぐすぎるルカのその言葉に、海斗は照れくさそうに頬をかき、視線をそらした。すると、座席の両サイドに小さなツボのようなものが置かれ、そこから一筋の細い煙が出ていることに気づいた。
「なぁルカ、このツボみたいなのって」
「リラックス効果のあるアロマですよ。長旅ですし、あったほうがいいかなと思って」
「へぇ、こっちにもそういうのあるんだ」
「こっち?」
海斗の不用意な言葉に、首を傾げるルカ。
すぐさま不用意な発言だったと気づいた海斗はどこかとぼけ、
「あ、えーと。こっちの大陸でもあるんだなと思ってさ」
「まぁ、そんな珍しいものじゃないですから。どこの大陸にもあるんじゃないんですか?」
「へ、へーそういうもんなのか」
不審がられていないようで、苦笑いを浮かべながらほっと胸をなでおろす。
それにしても、と思う。改めて視線を周りに向けて気付いたが、随分と深い森の中を走らないといけないんだな、と。道自体はきちんと均され整備されているからガザンへ向かう道で間違いはないみたいだが、これだけ周りが木々だらけでは、なるほど盗賊にとっては身を隠しやすく絶好の狩場というわけか。
しかし、そこまで考え海斗はある疑問を抱いた。
「なぁルカ。こんな森の中、どうやって護衛もつけずにガザンまで行く気だったんだよ」
ただでさえ木々の中に何かが潜んでいても不思議ではないのに、ましてや盗賊が頻出するというのなら、どう考えても護衛もなしの移動は自殺行為に等しい。
すると、そんな海斗の問いかけにルカはどこか慌てた様子で。
「危険なのは重々承知してるんですけど、ラインだけで商売していてもどうしても先細りなのは目に見えていましたから」
「だからって、無茶しす――」
呆れ、ため息交じりにそう口に仕掛け海斗は欠伸を漏らした。いや、それだけじゃない。急に瞼も重くなり、意識が薄れ始めてきたのだ。
「どうしました、カイトさん」
「ごめん、急に眠たくなってきて」
「でしたら、しばらく寝ていてください。大丈夫すぐ着きますから」
「あぁ、そうす……る……」
襲い来る睡魔に耐え切れず、瞼を閉じる海斗。けれど、その直前に瞳に映ってしまった。目を伏し、何かを耐えるようにぎゅっときつく口を閉じているルカの姿を。




