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ラインの街 その1

「着いたー」

 船から降りてすぐ、開口一番、アスナは両手を突き上げてそう叫んだ。

 ポートランドで今後の予定を立てた海斗達一行は、その翌日に船に乗り込み、一週間かけて、このロマーヌ大陸西端の港町、ラインへと到着したのだった。

 アスナを先頭に次々と船から降り立つ面々。

「ここがロマーヌ大陸か。にしても、暑いな」

 空高く輝く太陽と、その蒸しっとした気候に、思わずそうこぼす海斗。額には早くも汗が滲み始めている。

 と、そんな時だった。

「どいてくださーい!」

 突如として届いた叫び声。声のしたほうへ目を向けると、降り立った海斗たちの左手側、勾配の激しい坂を、荷車を押した男がものすごい勢いで下ってきていたのだ。

 咄嗟のことに、ガイはアスナの手を引いて、カエデは自分一人で道の端へ避ける。しかしただ一人反応の遅れた海斗は。

「頼む、避けて!」

「え、ちょ、待って」

 ドーンっという派手な音と共に、荷車とぶつかり吹き飛んだ。

「ちょ、カイト大丈夫!?」

 アスナが慌てて駆け寄ろうとする。すると、海斗はそれを手で制し、自力で立ち上がった。

「大丈夫だ、問題ない。それよりぶつかってきた人は?」

「その人だったら、カエデたちが」

 アスナのその言葉通り、海斗たちの向かいで伸びている男のもとへカエデとガイが駆け寄っていた。

「おいおい、えらく派手に吹っ飛んだな。大丈夫かアンタ」

「いてて、大丈夫です」

 ガイが手を差し伸べ、男が立ち上がる。

 年はガイよりも若干若く、二十代後半ぐらいだろうか。細身の優男といった風貌だ。そして男の周りには、荷車に積み込まれていた果物が散乱していた。

「いけない、大切な商品が」

 慌てて果物を荷車に戻す男。それをカエデも手伝い、

「よし、これで全部です。すみません、ほんとご迷惑おかけしました」

 荷物をすべて荷車に積みなおすと、男は何度も頭を下げて早々にまた駆け足でその場を去っていった。

「何だったんだ、今の」

「さ、さぁ?」

 まるで嵐のような出来事に目を丸くする海斗とアスナ。すると、ガイがごホント咳払いし。

「気にしてても仕方ねぇ。俺らも行くぞ」

「おじ様。街を出る前に、色々と買い揃えませんか? ここからガザン帝国まで結構な距離がありますよね?」

「それもそうか。じゃあ、数日分の携帯食と飲料だけでも確保しておくか」

 そうして一同は、カエデの提案通りラインを出発する前に必要物資を調達することに。

 いろいろな店を回り、最後に携帯食を調達しようと食料品店に向かった時だった。街の中でもひときわ大きい建物の前に馬車が止まり、その周りに大勢の人だかりができていた。

「なぁ、何かあったのか?」

 何事かと気になったガイが、人だかりの一人の男に声をかけた。すると。

「今からここの店主が、他の店の商品も一緒に持ってガザンへ行商に行くみたいでな、危ないからやめろってみんなで止めてるんだ。子供を亡くしたばかりだってのによ」

「行商に行くだけだろ? 道中そこまで強力なモンスターも現れないし、護衛の冒険者をつければ余裕だろ」

「それが、そうもいかんのだ。近頃、ガザンへの道中に質の悪い盗賊が現れるようになってな。今まで何人もの商人が被害にあって、同行してた冒険者も、今や全員土のなかさ」

 そう言って、その男は地面を指す。その言わんとすることを理解し、海斗たちは息をのんだ。

 するとそんな時だった。店のドアが開き、一人の20代中ごろの年若い青年が姿を現したのは。

「ねぇ、カイト。あの男の人って」

「あぁ、間違いねぇな」

 アスナの問いかけに頷く海斗。二人は、いや海斗達四人全員その男の見覚えがあったのだ。そう、つい数時間前、ここラインに到着してすぐの海斗に、荷車ごと激突してきたあの青年だった。そして、ちょうど相手もこちらに気づいたようで。

「貴方たちは先ほどの」

 人ごみをかき分け、人懐っこい笑みを浮かべながら青年が駆け寄ってきたのだ。集まった人たちから何事かと訝しむような視線を集められるが、青年にはそれを気にする様子もなく。

「本当に先ほどは申し訳ございませんでした! こうしてわざわざ、我が商店にお越しくださ――ハッ! まさかどこか痛められていて、慰謝料請求に!?」

「いやいや、別に何ともないから。たまたま買い物に着ただけだから」

 大いに慌てふためく青年を前に、苦笑いを浮かべながらどうにか制す海斗。すると、ガイが一歩前に出てきて。

「なぁ、お前。さっき聞いたんだが、今からその馬車でガザンに向かうのか?」

「え、えぇ。そうですけど」

「で、その道中には厄介な盗賊が現れるようになっていると」

「ちなみになんだけど、道中の警護の冒険者はもう雇っているのか?」

「いえ、まだですが……」

 ガイの問いに、目を伏し首を横に振る青年。しかし、一人だけガイが何を考えているのか感付いた者がいた。

「が、ガイおじ様!? もしかして」

 思わず声を上げたカエデだが、しかしガイは意に介したそぶりもなくニヤリと笑みを浮かべて宣言した。

「ガザンまでの道中、俺らが同行して警護してやるよ」

 ドーンっと、いっそ清々しいほどまでの宣言。予想通りだとカエデは額に手をやりため息をつき、海斗とアスナ、それに青年は驚きに目を丸くしている。

「ちょっと、ガイ。正気なの?」

「どうした姫さん。そんな驚いた声上げて」

「どうしたって、アンタね。なんでそんなこと勝手に決めるのよ」

「別にいいじゃねぇか。道中馬車に乗せてもらえて時間の節約にもなるし、ただの盗賊相手に俺らが負けるはずないしな」

 ガイのその言葉に、なるほどと得心する海斗。確かに、少なくともガイがいる限りただの盗賊相手に負けることなんて想像できない。それこそ、キングクラーケンを一人で楽に倒してしまう盗賊でも出てこない限り。

 すると、どうやらアスナも折れたようで。

「も~分かったわよ。ただし、いざとなったら頼むわよ、ガイ」

 深々と溜息を吐き、了承した。

 それを確認したガイは、一歩前に歩み出て青年に手を差し出し、

「このガキ共の引率をしているガイだ、よろしく頼む」

「この街の商会の会長も務めています、ルカ・アゴストです。こちらこそよろしくお願いします」

 互いに、握手を交わした。

 こうして海斗たちは、ガザンへ向かう道中、ルカの護衛をすることになったのだった。




 

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