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港町ポートランド

 穏やかな波が潮騒の音を奏で、潮の香りが鼻腔をくすぐるそんな港町。

「やっと着いたー!」

 ランドマルクを後にして一か月弱。海斗達一行はようやくこの大陸唯一の港町、ポートランドへと到着した。

 アスナが歓声を上げ両手を上げるが、海斗も内心は同じ気持ちだった。

 ランドマルク出立後も、途中途中で干し肉などの保存食を購入するために村に立ち寄り体は休めたが、最後に村に立ち寄ってから十日あまりずっと野宿が続いていたのだ。正直一泊してでも風呂にも入りたいし、ベッドで寝たいというのが正直な願望だ。

「なぁおっさん。とりあえず今日は一日泊まって、明日出発しないか? また買い出しとかもしないといけないし」

「それもそうだな。じゃあとりあえず港に行って明日の船の確認して宿とるか」

 物は試しに提案してみたら以外にもすんなり承諾され、拍子抜けしたものの、三人は町の先端にある港へと向かうことに。

 歩きながら町並みを眺めると、ランドマルクと比べ民家は少ないものの商店の数が多く、特に食料品はランドマルク以上に数多くの品種を取り扱っているようだった。その辺りは港町故といったところだろうか。

 そのまま町を進むと、水平線の先まで見渡せる港へと到着した。

 そこには町中よりもひときわ大きな建物が一棟建っていて、埠頭には木製の桟橋が三基かかり、屈強な男たちが停留中の船から荷物の荷下ろしと荷積みを行っている。

「とりあえず事務へ行って、フォロッド島へ向かう船がないか確認するぞ」

「フォロッド島。封魔一族の里がある島だっけ?」

「あぁ。今の族長が二十年前の戦いで共に冒険した仲間だから、また力を貸してくれるはずだ」

 そうして三人はガイの先導で、港にある唯一のその建物へと向かった。

 建物内にはどうやら宿泊施設や食堂なども完備しているようだが、三人はその中でも港湾管理事務所と呼ばれる区域の受付へと向かった。

「ようこそポートランド港湾管理事務所へ。どういったご用件ですか?」

「明日、フォロッド島へ渡りたいんだが、船はあるか?」

「フォロッド島……ですか?」

 その島の名前を口にしたとたん、受付の眼鏡をかけた女性事務員は明らかに顔を曇らせた。そして何やら辺りをキョロキョロと見渡し、上司と思われる男性事務員にに声をかけ、何やら耳元で小声でやり取りをし出した。すると、男性事務員の顔つきもどんどん険しいものとなっていき。

「申し訳ございません。現在、フォロッド島への出航の予定は一便もありません」

「一便も? 確か以前は、一日に一本は連絡船が出ていたはずじゃ」

 男性事務員の申し出がよほど意外だったのだろう。ガイは目を丸くし、思わずカウンター越しに身を乗り出した。

 すると、男性事務員は視線をわずかに下げ。

「実は、数週間前からフォロッド島近海にて海洋性の魔物が急増しておりまして、船が近づけない状態となっているのです」

「なら、討伐すればいいだけじゃねぇか」

「すでに何組かの冒険者が挑んでいます。ですが、無理なんです。逃げ帰った方々の話によると、魔物の中にはB級指定のキングクラーケンがいるようなんです」

「何、キングクラーケンだと!?」

 その名前に、目を見開くガイ。

 対して、二人の会話の様子を見ていた海斗はそっとアスナに耳打ちした。

「なぁアスナ。キングクラーケンはなんとなく魔物の名前ってわかるけど、B級指定って何なんだ?」

「魔物の危険性を表す指標よ。上はA~Gまであって、キングクラーケンのB級は、その一体だけで町が壊滅するレベルね」

 半ば自棄になっているのか、満面の笑みで言ってのけるアスナ。ちなみに、ここまで海斗たちが相手にしてきた魔物達はせいぜい、新人冒険者たちが苦戦されるとされるF級がいいところとのこと。

 しかし、そうか。町が壊滅するレベルの魔物か。うん、フォロッド島に行くのは諦めるしか――

「分かった。じゃあ、俺らが討伐する。それで問題ないな?」

「――はぁ!?」

 しれっと言ってのけたガイに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった海斗。

 そしてそれは海斗だけだったようではなく、アスナも目を見開きポカンと口を開け、一国の姫にはあるまじき表情をしている。けれど、すぐはっと我に返りガイに詰め寄った。

「ちょっとガイ、本気なの?」

「どうしたんだよ姫さん。そんなに慌てて」

「慌てもするわよ! B級指定の魔物なのよ。無理よ、私たち三人でなんて。カイトもそう思うわよね」

「そりゃ、たった一体で町を壊滅されるような奴とやって勝てる自信はないけど」

「そうよ、そうよ。そんな無理する必要ないじゃない」

 海斗を巻き込み、やんややんやと喚きたてるアスナ。

 そんな若者二人の様子を前にし、ガイは両眼を閉じて、ふーっと一度大きく息を吐いた。そして考えをまとめ、ゆっくりと目を開き、

「確かに、お前たちにはまだ負担がデカいな」

「そうよ。ようやく」

「だったら、キングクラーケンは俺一人で討伐する」

 キッパリとそう言い切ったのだった。


 ポートランドに到着した翌朝、海斗とアスナは、また港の埠頭前に来ていた。そして二人の目の前には、これから乗船する予定の大型船が桟橋横に停泊している。

 二人して何をするわけでもなく忙しなく働く船乗りたちを眺めていると、ふと、アスナが口を開いた。

「ねぇ、カイト。どう思う? 昨日ガイが言ってたこと」

「一人でキングクラーケンの相手をするってことか?」

「そうよ。ガイが強いことは知ってるけど、それでもB級指定の魔物を一人で相手にするなんて無理よ」

 結局はその宣言が覆ることはなく、ガイが一人でB級指定のキングクラーケンを討伐し、海斗たち二人は、今後のためにも船に同乗しその戦闘を間近で見ることになってしまったのだ。

「ていうか、あれだけ無理してフォロッド島にこだわるなんて怪しすぎよね」

 ムムムと口をとがらせ何やら逡巡するアスナ。すると、ポンッと手を叩き。

「分かったわ。きっと、封魔一族の中にいい感じの中の女の人がいるのよきっと」

「適当なこと言ってるんじゃねぇぞ、姫さん」

 アスナの半ば思い付きのような言葉にかぶせるように、二人のすぐ背後から発せられた声。ギョッとして二人が振り返ると、いつの間にかガイが腕組し、背後に仁王立ちしていたのだ。

 気配どころか、足音すら全くしなかった。一体いつからそこにいたのだろうか。

「ガ、ガイ。おはよう。えっと今のはね」

「船の準備も出来たみたいだ。無駄口はいい、行くぞ」

 アスナの弁明を遮り、先へ行くガイ。そこにあるのは、普段の様子からは想像もできないほどの、まるでぴんと張った糸のような静かな緊張感。それが、これから臨む戦いか今までのとは桁違いなのだと嫌でも海斗たちに物語っている。

 そんなガイの後ろ姿に、海斗はギュッと拳を握り固唾を飲み込んだ。

 そうして三人は船に乗り込み、ポートランドの港を後にした。

 

 

  

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