表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Your story with|SUBARU cmパロディ 家族編

作者: 伊藤 茶

一度、書いて見たいと思っていたいものです。オリジナルです。

あなたとクルマ、どんな物語がありますか?――


「仕方ないだろ、会社が決めたことなんだから」

スーツケースを持ち、下駄箱で靴に履き替える。

「仕方ないって、私たちはどうすればいいのさ……」

後ろから妻が言った。

「電話もできないような外国に行くわけじゃないんだからさ」

僕はそういったが、妻の顔は見れない。

「そうかもしれないけど……、寂しくないの?」

「寂しくないわけないじゃないか、嫌に決まってるだろ、でもどうにもできないんだよ、決まったことは……」

娘は来年から近くの小学校に通う。こっちでは友達も多い。近所との仲もいい、それなのに3年の転勤に付き合わせ、まったく知らない場所で暮させるわけにはいかない。

「じゃあ、行くから……」

鞄と鍵を持ち、車庫に向かった。空港までの道のり一言も話さなかった。僕ははじめてこの車に乗った。いつもは、もう一つのほうに乗っている。


僕は昔から車が好きで、その車は妻と出会う前に買ったもので、もう10年近く乗っている。そろそろ買い替えないととは思ってるがこの車にはとても思い出が残っている。


これは初めて自分でためたお金で買ったものでそれはもう大切にしていた。初めて助手席に乗せた女性は妻だった。付き合い始めてからもよくドライブデートをした。大げさなことはできないから僕はきれいな夜景のところまでこの車で走りプロポーズをした。


僕たちのあいだに子どもができた。その赤ちゃんを迎えに行ったのもこの車だ。1歳、2歳、3歳と、娘が歳をとっても、そばにはいつもこの車もいた。休みの日はよくドライブもした。娘ができたからは妻は助手席に乗っていない。でも振り返ればいつもそこにいた。


※※※


でも、今は横にも、後ろを振り返っても、なにもない。空っぽだ。会社から貸してもらっているこの車は僕の車と同じモデルでも何かが違う。


最初は毎日だったが、今では1週間に一度のペース。電話をしているときだけ時間がいつもより短く感じた。

奥ではいつも娘がはしゃいでいた。画面の向こうにはいつも笑顔のふたりがいた。手を伸ばしても届かない……。



3年間というのはあっという間だった。とても良い経験にはなった。

空港まで営業所の人がお見送りをしてくれた。はじめてそこで仲良くなれた人で、時々でいいので連絡してくださいね、と言って別れた。他にも何人か来てくれていて、とてもいい人たちで嬉しかった。でもなぜか少し笑っていた。


今日帰るとは、家族には伝えていない。タクシーで帰ってびっくりさせてやろうと思っていた。


タクシーを待っていると聞いたことのあるクラクションが聞こえた。振り返ると僕の車だった。

驚いている僕に構わず、車から小さな子どもが足にしがみついてきた。少し大きくなった娘だった。運転席からは妻が出てきた。

「ど、どうして……」

「会社の人に教えてもらったのよ」

胸の底から熱いものがこみ上げてきた。それは抑えることができなかった。

「びっくりさせようと思ってね、驚いた?」

「ああ、とっても」

だから笑っていたのか、あの人たちは。

娘を抱きかかえ止めてある車に向かった。


僕は運転席。後ろには妻と娘。

これだ、この感じ。僕はまた泣きそうになってしまった。

これはどうにかおさえた。

そして、走り始めた。

向かうのは我が家。

もうなくしたくない。この感情。


“クルマに乗るすべての人に”

“安心と愉しさを”

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ