十一話 メイドは走る
鬱蒼とした森、というのは日本でもそう見ない光景だ。
しんとした森の中はほんの少し霞みがかっていて、足元に伸びる根は生命力を感じさせる。
森に踏み入り約一時間。
未だに川は見えない。
信彦が呻く。
「リーダー……まだかー……」
「アルネドさんからもらった地図によると、ここでちょうど半分くらいだ」
「うえーまじかよ」
うえーまじかよ。ここで半分?なんでそんなに深くに野営する意味……ああ、逃げ出さないようにか。
深いため息が列の前方から大きく聞こえて来る。
ちなみに列の先頭はリーダー坂木、魔術師の信彦、鍛治師の姫塚だ。
姫塚が鍛治師なのは意外だったなあ。
あ、ちなみに全員の職は《ステータス探知》で把握済みです。
中でも気になった職をいくつか紹介しとこう。
尾獣師の有野、龍医者の佐々木、道化師の間宮。
この三人だな。
何をする職かすら分からん。
で、俺はひとつ提案をしてみた。
「あのさ、それぞれがどんな職なのか把握しといた方がいいと思うんだよ。だからさ……」
「うるせぇぞ神崎。てめぇ普段喋らねェくせにしゃしゃんじゃねぇよ」
篠崎……くッ……身体がこいつにボコられたのを覚えているらしく、強張ってしまう。
「……ああそうかい。なら何も言わねえよ」
「ふん」
ここ数時間まともに体を動かせてないからか苛立っているようだ。
本能に真っ直ぐなやつだな。
とまあ、そうこうしているうちに……
「つ、着いたぞ……」
「「おおー!!」」
きらめく川!真新しく設営されたテント!そしてそれに群がるアメーバ状の生物!
「あれがスライムか」
「よっしゃ!俺に任せろ!」
信彦が一歩前に出てワンドを構える。
「闇を照らす暁の刃となれ!ファイアー!」
ワンドの先から火炎放射のごとく炎が吹き出る。
それがスライムを包み、ぶすぶすと蒸発させるのに約10秒足らずだ。
『ピギャアアア……』
スライムって発声器官なんか有るのか?
スライムの焦げ跡から石のようなものが見つかる。
「これが魔石核か」
坂木が拾い上げる。
魔石核……魔物の生命の源となっているらしい。
動物から魔物に転化した場合は体のどこかに魔石核が生成され、それがいわば第二の心臓として活動するらしい。
「お見事です。勇者様方」
「! 誰だ!」
突如、背後に気配を感じる。
振り向くとそこにいたのは、
「こうして話すのは初めてですね。私、メイド四番隊隊長、ニハル・バーティアと申します。以後、お見知り置きを」
アルネドさんの部下と知り、ホッと胸をなでおろす。
「御用はなんですか」
「用などはございません。強いて言うのならあなた方の戦力を見たかっただけです。そのために『魔物避けの鈴 』も設置せずに、あなた方を待っていたのです」
恐ろしいことを……俺たちに何かあったらどうするつもりだったのだろうか。
「アルネド様からは手助けはするなと言われておりますが、あの方は毎回度が過ぎるのが傷でございます。なので、今回に限り助言させていただきます」
ニハルさんは皮を指差した。
「この川の上流には『溜まり』がございます。ちょうど五メートルほど、深さは腰くらいまででしょうか。そこには魚がおります故、食事はそれを取るのが良いかと。そして川の向こう側、あちら側にはこの『魔物避けの鈴』の効果が届きません。お気をつけください」
淡々と話すメイド隊長。
「では、私はこれで失礼します。くれぐれも『油断』なきよう……」
ぺこりと頭を下げると城へと走って行ってしまった。




