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アキラちゃんが行く その3

 その日アキラちゃんに衝撃が走った。それは自衛隊駐屯地の公開日のお知らせだった。なんと、戦車の試乗会がハガキ抽選になってしまった。今までは先着順だったのに!


 大人枠は当日もあるのだが、18歳未満は事前抽選だ。今まではお母さん連れで朝の6時から並んでいたのだが、もうそれも出来なくなった。椅子に座り、薄型PCでBLマンガでも描いていればよかったのだが。

 お母さんは喜んでいた。朝ゆっくり出来ると。それに、駐屯地の公開日のある週は絶対にグアム行きはお休みなので。


 アキラちゃんはハガキを書きまくった。財力に物を言わせて。PCで印刷しまくりだ。それがいけなかったのだろうか。見事にはずれた。


 なんでも、去年乗れなかった子が多過ぎて、苦情の嵐が。仕方が無いので、責任者が抽選にする指令を出したらしい。おのれ負け犬共、いらん事を。戦車に乗りたかったら6時から並ぶ! 常識よ!


 とりあえず、74式戦車と90式戦車は絡めてやった。重量過多で運搬困難なため、戦車アニメイベに乗っかる自衛隊広報にも相手にされない90式戦車。不憫なので、広報の人にも乗っからせてやった。


 ついでに基地の責任者もネットに顔出ししていたので絡めてやった。相手はライトアーマー(軽装甲車)と、それに嫉妬する高機動車だ。思いっきりエロく書いた。怨念を込めて。


 少し溜飲を下げたので、当日着て行くファッションを厳選する。やはり、迷彩服とブーツははずせないだろう。電動トイガンとかは持っていけないのが残念だ。帽子は布製の鍔つきだ。リュックも使い込んだ迷彩仕様。


 本人は格好いいつもりだが、可愛い女の子が着るとやっぱり可愛くしかみえない。自衛隊広報に売り込めば、ポスターに採用されるかもしれない。


 とりあえず気を落ち着けて、愛用のモデルガンの分解整備を始める。昔のようなオール金属製のモデルガンは無いので不満だ。プラスチックの奴だって、塗装しだいで幾らでも本物っぽく出来るのだが。


 アキラちゃんの場合は、グアムに本物を200丁置いてあるので、無理に本物っぽく仕上げる必要は無い。


 分解整備をして、組み立てに入り、部品同士を絡ませていくと、いくと、いつの間にかマンガを描いていた。よく絡まって最高の出来だった。ネジだのスプリングだのの部品でさえなければ。

 銃本体にバレルが捻じ込まれるシーンのエロさと言ったら。


 当日になった。お出掛けである。アキラちゃんはバリバリ兵隊スタイル。お母さんもお揃いで迷彩帽子と、迷彩リュックだ。全身迷彩服はさすがに勘弁だ。近所の人も見慣れた風景なので誰も気にしたりしない。


 自宅そばのバスを乗り継ぎ、電車で。指定席だったので、PCを出してバスや電車を絡ませていく。やはりエロイ。


 現地に着くと例年のような長蛇の列は無い。まだ開門までに30分ほど。ただなんとなく並んでしまうのは日本人の性。後ろに可愛い迷彩テンガロンハットのお嬢さんが。5歳かな、6歳かな。なかなかお洒落だ。


 アキラちゃんの気合の入った格好が気に入ったのか、話しかけてくる。

 お母さんによれば、自衛隊大好きっこで将来自衛隊に入りたいらしい。更にその後ろのおじさんにいたっては、既に娘が自衛隊員だ。いつもならエロマンガ? を描いて待つところだが、似たような人達との交流につい話が咲く。


 開門早々に、戦車試乗抽選会の整理券について受付で聞くと、早く並んだ方がいいといわれてダッシュするアキラちゃん。お母さんは慌てて追いかける。


 だが、配るのは12時。それまで並ぶしかないですね、12時になった時点で60人までに入っていればOKですと。しかし、当選は30人。はずれたら、並び損という。

 一応当日子供が並んでも大丈夫らしい。子供には甘い自衛隊。


 お母さんにお願いする事に。お母さんは最初からそのつもりで、本を持ってきていた。どうせ、こんな事になるだろうと。椅子を取り出して本を取り出した。いつもの光景である。全員解散した場所で、お母さんだけが座っていた。


 まずは高機動車とライトアーマーの試乗だ。朝一番はいつも空いているのだ。何回でも乗れる。乗っているうちに、他の人が誰もいなくなってアキラちゃんの貸切になった。気合の入った格好をした可愛い女の子なので、お兄さん達は誰も文句を言わない。


 次に展示品を軽く見てから、「トイレ」を済ませ、お母さんも交代してトイレへ行ってもらった。別に他に並んでいる人は数人しかいないのだが。女性用トイレはピークで駄々混み。イベトイレの持込はいいか聞いてみたが、やんわりとお断りされた。


 それから、自衛隊のお兄さん達とお話をいっぱいして記念写真もたくさん撮った。お兄さん達はBL用資料であるとは露とも思わずに応じてくれた。


 前から、そうずっと前から聞いてみたかったことをおそるおそる聞いてみた。自衛隊入隊の夢が壊れてしまうような気がして、怖くて聞けなかったのだ。

 アキラちゃんも、もう14歳。頑張れば、あと4年で晴れて自衛隊入隊。さすがに中卒隊員はキツイ。来年の春には進路相談もある。今年は絶対に聞いておかねばならない。


「あのう。自衛隊ってブーツ履きっぱなしですよね。隊員の水虫具合はどうですか? やっぱり全員水虫?」


 連載3回目、ヒロインの初セリフがこれである。

 お兄さんは苦笑して、それは人によりますと。よかった、全員じゃなかった! やはり自衛隊を目指そう。晴ればれとしたアキラちゃんの美少女度が2ランク上がった。お兄さんも眩しそうに見る。


 スーツの偉い人がいたので遠慮なく話しかける。トランプショックの話、米軍の核の傘が嘘な事、国民の意識のぬるさ。国防費のあまりにもの少なさ。自衛隊は米軍の補完をするよう編成しているのに、米軍が撤退したらどうするのか。概ねアキラちゃんと自衛隊の偉い人の意見は合致する。

 

 11時を回ったので、並ぶことにした。去年はカレーに並んでいたら、途中で売り切れてたので、今年は食べた。美味しかった。焼きそばも食べて満足した。すでに御土産の装備品もリュックの中に納まっている。


 他の人とおしゃべりしていたら、いきなり戦車搭載のM2機関銃の発射音が。ヘリも飛び回る。説明はここまで聞こえてこないが、何が行われているか手に取るようにわかった。そろそろ、あれがくる頃。


 そう、155ミリ砲の空砲発射音。凄まじい、音というより衝撃そのものが体を揺さぶる。自分たちを通り越して、自衛隊の建物の窓が震える。網戸なんて、揺れまくりだ。お母さんはいつになっても、あの音には慣れない。体がビクっとするのだ。

 娘を見ると、もううっとりしている。既に色々手遅れであろう。


 やがて、12時になって、くじを引かされた。

 アキラちゃんはわくわくしてあけたが、はずれ。衝撃にくずれ落ちた。頼みの綱はお母・・

 無常にも、お母さんは笑顔でバツと打ってあるくじを見せてくれた。がっくし。思わず四つん這いになってしまった。来年こそは。密かに決意するアキラちゃんであった。


 その前に、「戦車のセール」をスマホで検索する。あるわ、あるわ、ゴロゴロと。 スマホでさっと検索して出てくる。

 欲しい。思わず思ったが、日本には持ち込めないので、アメリカかどこかで戦車を走らせられる土地を探さないと。本土となると、今の機体じゃな。


 知り合いの航空機ディーラーに、その場で電話。有名旅客機メーカーが出している中型旅客機のビジネスジェッットタイプの大陸横断機を発注した。


 未使用機市場に今ならロングタイプが1機あるが、どうする? と。グアムにおいておけるので、ハンガーや整備はバッチリと。お値段は60億。その場で買った。週明け早々、お母さんに振込みに行ってもらわないと。中学生はこういう時に不便だ。


 ついでに戦車のディーラーにも、その場で話をつけた。後は土地だが、なんとかしよう。とりあえず、戦車は手にいれた。自衛隊戦車はまた別物だが。


 その後も熱心に取材を続け、BLマンガ用の資料はたくさん集まった。帰ってからは机に齧りつくのだ。

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