回転の中へ
人の創りしものが、人の手を離れ、独自に歩み始めたのなら。
2091年。
世界の頭脳たちの警告は、言葉ばかりのもので、全ての技術は、生命体のごとく進化していった。
今日では、その技術的特異点はもはや正確に定義できないのではという話もでていた。
いくつかの概念は、もはや人類でも一部の者にしか認識のできないものになっていた。
世界の人口は、アフリカ、南アメリカを除き極端な少子化の様相を呈していた。
日本においては、もはや純粋な日本人の子供は、大変貴重な存在であった。
移民労働基本法が2045年に施行され、混血児が増えたのだ。
2060年代の初めから、人の意識を「エデン」といわれるネットワークに接続する技術が、合法化され、
世界各国で急速に広まっていった。
それゆえに日本のみならず、世界のいたるところで、少子化が進んだ。
その技術は、「SOC(the stream of consciousness)」、意識の流れと
人々から呼称され始めた。
「SOC」の開発に成功したのは、日本とイギリスの共同チームだということが、噂されただけであった。
次第に人の活動範囲もエデンへと移行しつつあった。
エデンでの活動は、人の次なる作業を求めるものだった。
つまり、より想像力、イマジネーションを求めるもので、
それが不得意なものは、よりアルゴリズム演算における実行部隊も要員として回された。
問題なのは、こうした目的は、ほとんどの人間は、知らなかったという点だ。
多くの民衆は、エデンでの生活は、セカンドライフ程度に満喫していたのだった。
一部には、戦闘のみに興ずるものもいた。そういった者は、「ラフィアン」とも言われた。
エデンはクラウドネットワークの形態を示しており、もはや、人間の管轄から外れたものだった。
そんなパンドラの箱を開けるのには、十分すぎる理由を人間は抱えていた。
それこそ、環境問題、国際問題、テロリズム、先に述べた少子化問題、
そして何よりも世界の人々に蔓延していた、焦燥感であった。
エデンでは、まったく異なる世界情勢であった。
そして何よりも研究者たちにとっては、エデンはまさしく楽園であった。
多重セキュリティによって守られた、通常のアルゴリズムでは、侵入不可能な空間を構築できたためだ。
いわゆる「秘密の部屋」というものだ。
エデンの中には、プログロリアンといわれる、エデンの中で生まれたプログラム生命体が存在していた。
彼らは、一般人たちの中では、識別不可能であったため、さほど問題にならなかった。
しかし、彼らの幼児期の記憶は、矛盾の多いものばかりであったため、過去の話をすればするほど、
彼らが人類ではないという事を直感で理解する者もいた。
しかしそういった場合、プログロリアンは
「あなた方も幼いころの記憶なんて、不鮮明だし、それどころか記憶は、古ければ古いほど脚色されるものでしょう」
と言うのであった。
世界人口の70パーセントは、エデンへのダイブを可能にしていた。
さらにその中の60パーセントは、エデンから帰ってこないものもいた。
間口透は、日本政府情報省の特別執行機関に属していた。
「いわゆる『パラドクス症候群』、近年、増加の一途をたどっているわけだけど、
君は、どう思う?」
間口の同僚が彼にそう尋ねる。
「漠然とした質問だな。現実とエデンを区別できなくなるなんて、そんなの自然な生理現象だよ。」
と答える。
そして、「現実もエデンも違いなんて厳密にはない。むしろ現実とエデンを繋げているているからこそ、
便宜上、互いの世界に名称を与えているだけだ。人間関係というものが互いの錯覚で成立しているフィクションなのだからね。そもそも現実というものを絶対的存在として拝んでいるのは、一昔前のやり方だ。
いちお、僕も日本政府のお役人である手前、現実を出発点としているけど、
いつまでも沈みゆく船の上に立っているつもりはない。」と続けた。
同僚は、苦笑いを浮かべる。しかし、どこか怒りの表情とも捉えられる。
「エデンでも国があって、政府があって、それどころか
エデンの中で記憶修正処理をするものもいる。
ただ、いまだに意識というものが脳から完全な離脱をするには、至っていない。
やはり、ここという現実があって、エデンという世界は、我々の中で成立するのではないか?」
と同僚は、問いかける。
しかし、間口もまた同僚に対して、苦笑いして見せる。
「おまえが言っている事って、エデンに対する批評なのだろうが、それは、そっくりそのまま、現実に対する人間の認識に対する批評じゃないか?」
「、、、、そうだな」
同僚は、その曇り始めた自身の状態を切り替えるつもりで、
「じゃあ、『タンク』にいこうか。」
と言った。
『タンク』とは、多くの人間がエデンでの生活を望んだために作られた収容施設の様なものである。
接続中の身体の安全を守るためにも
施設の存在は、政府でも情報省と総務省の一部の者のみだけが認知していた。
「相変わらず、異様な光景だ。」
と同僚は口にする。
間口は、ただ淡々とシステムチェックを行う。
そして、自らインターフェースを装着し、
「すぐに戻るぞ。」
と同じく準備のできた同僚に対して言った。
「すぐに戻れるならならな。」
途中放棄しないようにがんばってがんばって、最後まで頑張ってみます。




