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出あうことのない二人、出逢う  作者: 柿ノ木コジロー
第1章 朝 ― ピエト・モンドリアン
2/18

―― 私。午前6時23分


 この世界から逃げ出したい、今すぐに。


 娘のお弁当を作る。あと七分しかない。焼き海苔を切るためにキッチン鋏を取り上げる。

 キャラクターの輪郭に予め型抜きされていた市販の海苔は、型から外したとたん、ご飯の湯気にやられて丸く縮こまり、手から離れて流しの中に落ちてしまった。高い買い物、全然使い物にならない。仕方ないので全型の普通の海苔をわざわざ出して、とりあえず細長い直線に切り始めた。


 何にしようか。一番得意なのはアンパンマン。しかし小学四年にもうこのキャラはないだろう。娘にあきれられるに決まっている。というより、みんなの前で恥をかいた、と食ってかかられるだろう、あの子に。作ってやってそれはないだろうと思う、いつも思う。でも、それでも優しく笑って「ごめんね」と言ってしまうだろう私。

 どんどんと、直線の細い海苔が小皿に溜まっていく。ただの直線。


 

 無駄なことをしている。そんな疲れが積み重なる。積み重なるのは疲れだけではない。あきらめも、怒りも、悲しさもすべて灰色の綿ゴミとなって私の上に降り積もる。

 私は羽をうち拡げ、かごに体当たりを続ける小鳥のようだ。いや、その小鳥をじっと見守る猫? 猫も自由ではない。ご主人さまが扉を開けてくれるのをただ戸口の前で待ち続けるだけ。



 逃げ出したい。

 羽を打ちつけ、私の心は冷たい床に落ちる。


 床の隅で私の願いは黒く長い尾を振る。いつまでも開かない扉の開く時をただひたすら待ち続けて。


 いえ、小鳥でも猫でもない、私は私。



 でも、私とは何?



 時計をみる、あと四分しかない。娘はまだ起きてこない。中学生の息子も。

 ふたりとも目覚ましもセットしているはずなのに、一度も自分たちで起きてこない。わざわざ起こしに行かないと、しかも布団に手をかけて揺すってやらねば起きない。甘えているのだろうか、一度そのままにしておこうか、といつも思っているが、私にはその勇気もない。


 ご飯の上に、細く切った海苔をそっと並べる。縦、横……ちょうど、不揃いなあみだくじのように。それとも、きっちりと区画整理された市街地の地図か。



 何をしているのだろう、私は。もうどうしようもない。

 明確な目的があって歩き続けていたはずなのに、気がつくととんでもない泥沼の中で目覚めたようだ。


 私は何?



 娘は納得しないだろう。それが何より怖い。

 小さな四角がいくつも並んでいる。そのひとつに、そっと炒り卵を満たす。黄色の枡。隣にはハムを四角く切って載せる。そして少し離してとりそぼろの四角。


 どこかでみたような図柄になる。そう、これは

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