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 終

 私たちは互いに愛している、と言った、そして



 彼はそのまま踵を返し、音も無く、私のもとから去っていった。

 風を起こすこともなく、匂いもなく、足音すら響かせずに。

 


 しばらくしてから、ひそやかな音が立ちあがってきた。少しずつ。

 遠い病室からのナースコール、水道のきしみ、ストレッチャーの遠慮がちな金属音。


 真夜中の病院はいつもの表情を取り戻す。


 夫の声が急に近くなった。

「……イグチ先生に任ればもう、安心だなあ、こんな夜中でもちゃんと説明してくれてさ、手術もちゃんと、責任持ってやってくれるって言うし……あれ、気がついたのか、おい、ケイタ、ミナミ、早く来い母さん、目が覚めたぞ」

 少し離れて、よく通る娘の声。

「お兄ちゃん、私のお茶落とした!」

「バカ、真夜中にでかい声だすな」息子は相変わらず気が小さい。ささやき声で怒鳴っている、でもこれだって十分声は大きいだろう。



 私は微笑む。最初、流れているのは涙だとは気づかなかった。












 ―― 私は近頃、死について考えている、そして、愛について。






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