永遠の愛
「ねえ様」
宮園しえみは人形のように精巧に整った顔立ちに花開くような笑みを浮かべながら病室のドアを開けた。
目に痛いほどの白の中。
ベッドの上に座る薄紫色の長い髪をたおやかに一本の三つ編みに結んだ少女が振り返る。
色が白く、繊細で儚げな雰囲気を纏う彼女、宮園えみりは穏やかに微笑む。
だがすぐに、怒ったように顔をしかめた。
「しえみ、また来たの?」
「今日は授業は午前まででしたから。
それより、ねえ様の好きなカスミソウを持ってきたんです。飾りますね」
えみりは誤魔化すように花瓶を手に取り背中を向ける妹にもうとむくれていたが、一時するとどこか嬉しそうに微笑んだ。
春の陽射しのさしこむ午後の病室。
しえみの髪がきらきらと輝いていた。
金色のそれは、姉妹だというのにちっともえみりとは似ていなかった。
けれど振り向いたその顔のパーツは似ている。
ややつりあがった目尻、赤みを帯びた唇、青いひとみ。
血の繋がった妹はとても美しい。
そして、とてもいとおしかった。
病床に伏せてもう七年たつ。
親も見捨て、ただ悪戯に生き延びているみっともない自分の傍にいてくれるのは妹のしえみだけだ。
金色の髪に青い瞳のお人形のような彼女。
成績もよくて将来有望で、けれど、いざとなったら授業さえ投げ出して自分の元へ来てくれる。
罪悪感さえ殺してしまうほどの異常な愛はいつしか彼女を蝕み、二人は秘密の恋人になった。
初めてキスをした日のことは一生忘れない。
あの瞬間、えみりはしえみの特別になれたのだ。
血の繋がりなんてちっぽけなものじゃない。
彼女の全てになれたのだ。
「ねえ様、はい」
「ありがとう」
渡された花瓶を近くの棚の上に飾る。
白い米粒のような花がかわいらしい。
えみりにとってカスミソウは妹以外で唯一といっていいほど好きなものだった。
その儚げで、でも可憐な姿が好きなのだ。
ふと、それを眺めているとベッドについていた自分の手にしえみの手が重なった。
振り向いた瞬間、頬に長い金髪がかかる。
唇に触れる、柔らかな熱。
「ん……っ」
「ねえ様」
熱く潤んだ青い瞳に真っ直ぐ見つめられて、えみりはたまらず目を閉じた。
唇を塞ぐ柔らかなそれか漏れる吐息が甘い。
何度も何度も啄むように触れてくる唇に翻弄されていると、三つ編みがほどかれる。
さらりとシーツに零れたそれをしえみが撫でる。
そのまま、えみりは優しく押し倒された。
「……ねえ様、好き」
「わたしも、大好きよ」
子供のように紡がれるつたない愛の言葉に、えみりは優しく微笑んで受け止めた。
しえみはその体の上に重なるように倒れると、姉の腕に抱かれて目を閉じる。
慎ましやかな胸の奥、心臓の音に耳をすませる。
とくんとくんと愛しい音。
「しえみ、寝ていいよ」
「……でも」
「いいから。たまにはこういうのも良いでしょ?」
渋るしえみにえみりは悪戯っぽく笑う。
それから足を絡ませ、腕を絡ませ、お互いを抱き締めながらベッドに転がった。
金色と薄紫色がシーツの上で混じりあう。
お互いの体温を感じてお互いの心臓の音を聞きながら、二人は目を閉じる。
しえみが男だったら、えみりが男だったら。
二人はたまにそういうことを考える。
そうしたら、もし片方が死んでも残せるものがある。
けれど現実は違う。
二人は女で、姉妹で、だから愛し合っていた。
結局は無意味な空想でしかない。
けれど、二人にとって今こそが永遠だという事実は、変わらなかった。
サブタイはカスミソウの西洋の花言葉から。
関係ないけど私の一番好きな花は青いヒヤシンスです。もしくは梅。
花って綺麗ですよね。




