2.繋がり
この駄文は、作者の妄想が具現化したモノの為、説明不足・無理な設定などが多々見受けられると思います。ご注意ください
また、色んな形の友情、繋がり、恋愛なども、書けたら書いていきたいので、そういったものを許せる、心の広い人のみどうぞ
席に着くと、クラスメイトに囲まれ質問責めに合う黒斗。お陰でその前の俺と愛華の席、それと(羨ましいことに)その隣の杞乃の席は、めちゃくちゃ狭い。というか、完璧に容量オーバーである。
始めは皆、人の子らしくまともな質問をしていたが、さすがは古中生。一通りのオーソドックスな質問を終えたあと彼らがした質問は、あまりにも無意味かつどうでも良いことばかりだった。
「ねぇねぇ、お金持ちってことは何?毎日豪華なもんでも食べてんの?胃とか凭れない?」これは豆腐屋の息子で薬づくりの天才からの質問。
「金持ちっていったらやっぱ、自家用ジェット機だよね!!機種は何なの!?」これは乗り物オタクからの質問。
まぁ、ここらへんはまだ序の口だ。もっとマイナーな質問としては、こんなのもある。
「あのさあのさっ、コーラとかの瓶についてるスカートって、何個って決まってたっけ!?」何故それをわざわざ転入生に聞いたし……、炭酸中毒の紅茶博士。
「あーそうそう、それで思い出したんだけど、あんた女装の趣味ってある?金持ちにはそーゆー変わった趣味の人が多いって聞いたんだけど」超冷静に何聞いてんだこの漫画オタクがっ!!資料かっ!?メモ片手にしてるってことは、資料なのかっ!?月一回は行われるあの悪夢の資料集めなんだなっ!?
……駄目だこりゃ、つっこみが間に合わねぇ。
だが、そんな変人達……じゃなくて古中生の変わった質問に、少々引きつった顔をしてはいるものの、この新参者の魔怖黒斗は律儀にそれら全ての質問に答えていた。
「いや、普段は和食を好んでいるから、問題はない」
「自家用ジェット機は持っていない。レンタルで間に合ってる」
「21個だ」
「俺にはそんな趣味はない」
すげー、特に最後から2番目すげー。普通スカートって単語でもうアウトだろ。流石は天才若社長(笑)
それにしても……、
「な、なんか人間増えてね?」
「た、他クラスの人も来てるみたいっ」
徐々に増えていく人に押されて、机ごと体が動く様子に、思わず愛華と一緒に声をあげる。気分的には、年末の安売りセールに駆り出されて、人混みではぐれてしまったときの、あの衝撃に近い。
ってか杞乃、何でそんな人混みの中普通にニコニコしてんだよ。いや寧ろ、なぜ皆杞乃にだけ気ぃ使って黒斗に群がってんだよ。やっぱ古生と言えど美形は待遇すんのか。流石は犯罪級に可愛い杞乃、やっぱ可愛いなおい……、じゃなくてっ!!
まあそんなわけで、この日は後ろの転入生とは大して接触することはなかった。いや、正直俺は別にどうでもいいんだ、あんな仏頂面のボンボンなんか。
けど、杞乃は違った。基本的に博愛主義みたいな性格だから、新しいクラスメイトとも仲良くしたいのだろう。いや、ガチで純粋にそれだけであってほしい。
だから、帰り道に黒斗を見つけたときには、それを杞乃にも教えようか、少し迷った。
「んじゃ、また明日っ、バイバイぜよっ!!」
「おうっ、また明日なっ!!気ぃつけて帰れよ!!」
「バイバイ、杞乃ちゃん」
商店街の入り口で、杞乃ちゃんと別れて、私たちは手を振る。
いつも私たちは、龍くんと杞乃ちゃん、私の三人で登下校しているんだけど、杞乃ちゃんだけは途中から方向が別だから、こうして商店街の中では、私は龍くんと二人っきりでいることになる。
以前龍くんは、こうやって(大好きな)杞乃ちゃんと別れるのが少し寂しいと言っていたけど、実を言うと私は、龍くんと二人っきりになれるこの短い時間が、小学生の時の様で好きだった。
「あー、それにしてもほんっと、エラい目にあったよな……」
「ほんと、凄い人だかりだったもんね……」
本当に疲れた、みたいな大げさな表情に思わず笑うと、龍くんは頬を膨らませて、「愛華~」と少し情けない声をあげるから、私はまた笑ってしまった。
そのとき、ふわりと香ばしいソースの香りがして、私は笑うのをやめた。龍くんもそれに気づいたようで、おっ、と小さく反応すると、「あーくっそ、超いい匂い。お好み焼き食いてー」と笑った。
生まれたときから、ずっとお世話になり続けたこの商店街は、いつも賑やかで活気づいている。お客さんがいつもたくさんいる、って訳ではないんだけど、例えば商店街の人の宣伝する声だとか、例えばお客さんとお店の人の会話だとかが、凄く暖かく感じる。
「おっ、龍ちゃんと愛華ちゃん、おかえり。今日も学校は楽しかったか?」と、八百屋のおじさん。
「おかえり、龍坊と愛華ちゃん」これは、駄菓子屋のおばあちゃん。
たくさんの商店街の人が、おかえりといってくれる度に龍くんは、
「ただいま、勿論楽しかったぜ」
「もう中学生なんだから、その龍坊っての、いい加減やめてくれよ、ばーちゃん」と、一つ一つに笑顔で返していく。
私も同じように「ただいま」と返すんだけど、正直未だに恥ずかしくって、どうしても小さな声になってしまう。
「あ」
そう小さく呟いて立ち止まる龍くん。
不思議に思って私も歩くのを止めて、龍くんと同じ方向を見ると、そこには商店街の中の一つで本屋の、「秋月書店」が。
今日はお客さんが来ているみたいで、珍しくここの店長代理の秋月兎月さんも店に顔を出している。
見覚えのある黒髪と学ランで、黒づくめのそのお客さんは、丁度私たちとは逆方向を向いていて顔が見えなかった。けど、兎月さんの嬉しそうな顔つきからすると、多分知り合いだろう。
ふと、兎月さんが私たちに気づいて「おかえり、龍くん、愛華ちゃん」と、また笑った。
「ただいまっ、あと久しぶり、兎月さ……、ん?」
「ただいま、兎月さん……、え?」
兎月さんが手の振る方向に反応して、振り返ったお客さんと目があった瞬間、意外すぎる人物に私たちは思わず間抜けな声を上げてしまった。
そこには、丁度先ほどまで話題に上っていた人物、魔怖黒斗君が、いた。
文中に出てきた「スカート」とは,瓶についている栓の,あのギザギザした部分のことです。
昔読んだ児童書から抜粋したウンチクです