1,出会い
この駄文は、作者の妄想が具現化したモノの為、説明不足・無理な設定などが多々見受けられると思います。ご注意ください
また、色んな形の友情、繋がり、恋愛なども、書けたら書いていきたいので、そういったものを許せる、心の広い人のみどうぞ
この古中学校に、あの魔怖黒斗が転入してくるらしい。
ここ1週間、古中で持ち切りの話題だ。
といっても、噂している人間の9割方はその話題を一種の冗談として話しているに違いない。なにしろ、その噂の発信源である校内一の情報魔は、人を欺き不幸のどん底に突き落とすことを生き甲斐にしている、悪趣味な奴だ。そいつを信用して痛い目にあった奴が何十人いることか。
とにかく、そんな最高に信用できない噂で一週間も盛り上がるほど、その時俺たちは退屈してたんだ。
そして、俺たちがその噂を話題にして盛り上がってから一週間後の昼、つまり今日の昼、この古中に転校生が来るとの情報が入った。
しかも、そいつが来るのは、俺たちのクラスだとか。
尋常じゃなく、静まり返った教室。普段だったら、チャイムが鳴ろうと、先生が来ようとお構いなしに、自分の時間を確保する古生たちなだけに、とてもじゃないけど落ち着かない。
ましてや、後もう少しで転入生が教室に到着するのだ。当然学校中の自称・人間観察が趣味、という他クラスの野次馬たちが、教室の窓から顔を覗かせて、暑苦しいことこの上ない。
昼に転入してくる、ということは、少なくとも普通の立場にいる転入生ではないのだろう。
しかし、それだけでは転入生が魔怖黒斗とは断言できない。何しろ、この古中には魔怖黒斗のような、超大金持ちのお坊っちゃんやお嬢様だけではなく、芸能界に通じる人間なども、そこそこ在籍している。昼に転入してくるとだけでは、まだ何とも言えない。
堅い空気の中、ガラ、と間抜けな声とともに開くドア。一斉に注目する一同の目に映ったのは、我らが担任ただ一人。
初めての大注目に、少々気まずそうにしている担任と、大ブーイングの嵐を巻き起こす野次馬&クラスメイト。もちろん、俺もその一人だ。
「ふざんけんなよっ!!」
「せっかく早弁してまで、スタンバってた俺の努力を返せっ!!」
「アタシなんか、この席わざわざ買ったのにっ!!」
まぁ若干数名、非常識な行動を棚に上げているものもいるが。
文句を言うだけ言って、ぞろぞろと帰っていく野次馬に、それを特に不思議がるわけでもなく、見届ける担任。後々ここの内部生に聞いたが、実はこれ、転入生がくるときの恒例イベントらしい。
大量の野次馬を無事見送った後、満面の笑みでこちらを向く担任。
「まったく……、授業もそっちのけで野次馬なんて、困ったものねぇ」
穏やかな言葉と表情とは裏腹に、猛スピードで野次馬参加生徒の名前を紙に書き付ける担任。そして、それを全く気にせず、騒ぎ始めるクラスメイト。
やっと6月に入り、夏はこれからだと言うのに、冷たい汗が流れる。
内部生のスルースキル、恐るべし。
「それに、ほんとにみんな、せっかちねぇ。私は、転入生はいないなんで、一言も言ってないわよ」
のんびりと放った担任の声に、ぴたりと静まる教室。ほんとに、古生の反応の良さときたら、大したものだ。
「あら、やっと静かになってくれたわね。……それじゃあ魔怖君、入っていいわよ」
魔怖君、確かに先生はそう言った。
あの魔怖黒斗が転入してくるという噂は、本当だったんだ……
ガラ、と、先ほどと同じ間抜けな音と共に、噂の転入生・魔怖黒斗は姿を現した。
真っ黒な学ランで華奢な身体を包み、無表情で教室に入ってきたそいつのは、尋常じゃなく整った顔立ちをしていた。
とたんに、ざわつく女子。全体的に顔のレベルが高い古生に、これだけ騒がれるとは、それだけそいつの美形っぷりは凄いと言うことだろう。
男の俺からしたら、面白くない状況この上ないが、とりあえずそういった方面に疎い俺の想い人・悦悟杞乃と、親友・山科愛華は特に反応していないので、まあ由としよう。
「……魔怖黒斗です」
ぼそりと、しかし決して聞きづらくはない、低く淡々とした事務的な声。年齢に合わない、その声と表情に、俺は思わず眉をひそめた。
人と、関わるつもりがないのだろうか。それとも、人に慣れていないだけなのか。
ふと、3つ上の姉貴・沙の顔が横切った。
そう言えば、姉貴もこんな声と表情の時があったな。但し、その理由は前者で、しかも両親のみに対して、だが。
まあ、姉貴の話は置いといて……
コイツは、どっちなのだろうか。