告白 〜side美希〜
「実は僕…、あの日より前から、坂下さんの事を知ってたというか、見てたというか…。」
「そう…だったの…。」
私は、友達と食事に行く感覚で、孝平君と食事に来た…つもりだった…。
しかし、これまでの孝平君の態度やこの日の様子から、私に好意を持っている事ぐらい分かる。
「僕はまだ学生だから、坂下さんの恋愛対象にはならないかも知れないんだけど…。」
「…。」
「僕と付き合って欲しいんです。勿論、今すぐにじゃなくてもいいので、前向きに考えて欲しいというか…。」
やっぱり、そう来るか…。
「私、孝平君に言っていない事があって…。」
彼の事は嫌いじゃない…。
むしろ、話しているうちに、少しずつ彼に惹かれている…。
「彼氏が出来た…とか…。」
「違う、違う、そうじゃなくて…。」
どうにも切り出す勇気が出ない。
「…?」
「私には…、息子がいるんです!」
「はぁ、えっ!」
「私が生んだんじゃなくて、甥を私が引き取って育ててるんだけど…。」
「…。坂下さんには…、いつも驚かされますね…。」
「孝平君の気持ちは嬉しいんだけど…、私はそれに応える事が出来ない…と思う。」
彼は、少し考え込んだ後…。
「確かに驚きましたけど…。子供がいるから付き合えないというのは、少し違うような気がします…。」
「…?」
彼は、今まで私に言い寄ってきた男と、少し違うようだ。
「僕が、まだ学生だから付き合えない、って言うなら分かりますが…。子供がいるいないは関係なく、坂下さんが、僕をどう思っているかが重要だと思うんです。」
「…。」
「僕じゃダメだと言うなら諦めますけど、そうじゃないなら、前向きに考えて欲しいんです。」
「子供がいても?」
「坂下さんが、今までどんな苦労をしてきたか、少しぐらいは僕だって分かります。でも…。」
「…。」
「今まで一人で抱えてきたものを、僕が少しだけ手伝う事は出来ないでしょうか?」
この時点で、私の涙腺は崩壊した。
健太を引き取って以来、張り詰めていたものが切れてしまった。
不覚にも、孝平君の前で涙を見せてしまった私。
人前で泣いたのは、何年振りだろう?
少し落ち着いて孝平君を見ると、彼は私の涙を見てあたふたしていた。
それが少し可笑しかった。
「いきなり泣いて、ごめんね…。」
「あ、いや、まぁ…。」
「私の返事だけど…、一応、前向きに考えてみるという事でいい?」
「あ、はい…、宜しくお願いします…。」
「でも…、一つ問題があって…。」
「息子さんの事…ですよね?」
「うん…。」
「今度…、会わせて下さい。良かったら、三人でどこか遊びに行きませんか?」
「聞いてみる…。」
さて、どうしたもんか…。
私の周りには、私達親子を助けてくれる人達が沢山いる。
しかし、私はその人達に甘えず、一人で抱え込んできた。
それが、人の親としての強さみたいなものだと思ってきた。
結果として、健太一人だけに、私の支えとなって貰う事を強要してきたのかも知れない。
健太は、ほとんど我儘を言わない。
自分の気持ちを悟られないように振る舞う。
今年、高校生になったばかりの少年に、十年間も様々な我慢を強いてきた。
私が図々しいぐらいに、周りをもっと頼れば、健太には違う未来があったかも知れない。
『独身ですか?』という健太の口癖は、彼のSOSだったのだろう。
健太と一緒になって、私を支える人が欲しいという彼なりの…。
「ねぇ、健太!…今度、どこか遊びに行こうか…?」
「はぁ?二人で?何でまた急に?」
どうやって切り出すか迷っていた私だが、少し遠回りに健太に切り出した。
「えーと…、私の友達…と、三人で…。」
「それって…、男の人だよな?」
「そう…だけど…。」
「ふーん…。考えておく…。」
「うん…。」
緊張した…。
健太はどう思ったんだろう?
感情が分かりにくいんだよね…、アイツは…。