それぞれの想い 〜side健太〜
「今日は友美ちゃんとご飯食べて来るって言ったでしょ。」
いつもより遅く帰ってきた美希さんが、晩ご飯を作って待っていた俺に言った。
「はぁ?何だよそれ!聞いてねぇよ。美希さんの分も作っちゃっただろ!」
「メールしたよ。」
携帯を確認するも、美希さんからの受信はない。
「メールなんて来てねぇぞ!」
「あれ?…、あっ…!保存ボックスに残ってた!…ごめん…。」
この人は、いつもどこか抜けている。
「ふざけんなよ!まったく…、明日、食えよ!」
「はい…。」
いい歳して、高校生の俺に怒られてシュンとなる美希さん。
美希さんがこんなだから、いつも俺がしっかりしなきゃ、と思うんだよな…。
「友美と二人なんて珍しいじゃん…。アイツと二人で出掛けた事なんて無かっただろ?」
「健太には言えない、女同士の話。」
「何だよそれ!」
美希さんは何か俺に隠していた。
「昨日、美希さんと会ってたんだろ?何の話だったんだ?」
次の日、友美にも聞いてみる。
「健ちゃんには言えない、女同士の話。」
「お前もかよ!…もしかして…、美希さんの彼氏の事?」
「…!彼氏はいないって言ってたよ…。」
直感的に友美は嘘をついていると思った。
同時に漠然とした不安も感じた。
「もし仮に…、美希さんが結婚したら…、俺はどうなると思う?」
俺は思わず、不安を口にする。
「どういう意味?」
「俺は捨てられるんじゃないか…と。」
結局のところ、俺はこれが一番心配なのかも知れない。
「そんな事あるわけないでしょ!美希さんが、そんな人に見える?」
友美は俺の疑問を否定するが、不安は消えない。
「でも…、俺は美希さんの息子じゃないわけだし…。」
「はぁ…。本当にあんた達は…。あのね、健ちゃん。美希さんと健ちゃんは、どっからどう見ても、『母親』と『息子』なの!実の母親じゃないとか、実の息子じゃないとか関係なく。」
「…。」
「だから、何も心配ないよ!それに、美希さんの中で健ちゃんの存在って、凄い大きいと思うよ。」
「そうだといいんだけど…。」
友美にそう言われると、少し不安は和らいだ。
「仮に美希さんが、恋人とか旦那さんの所為で、健ちゃんを見捨てたりする事があっても、私は健ちゃんの味方だから…。」
「…!」
結構、衝撃的な発言だったような…。
友美は、俺が不安を抱えていると、いつもそれを打ち消してくれる。
多分、友美のそういうところが好きなんだろうな…。
今更ながら、俺の中における友美の存在の大きさを痛感した。
そろそろ、中途半端な関係に決着をつけないといけない時期になってきたのかな?
友美まで、他の男に取られないように…。
例え結果が、望んだ通りにならなくても…。
「健太って、友美ちゃんが好きなんだよね?」
「えっ、はぁ?」
その日の夜、突然、美希さんがとんでもない事を言い出した。
「健太は隠しているつもりでも、私にはバレバレだから。」
俺の顔を見て、ニヤリとする美希さん。
何でバレてるんだ!
「美希さんには関係ないだろ!」
「まぁ…、そうなんだけどね…。」
そう呟いた美希さんはなんだか淋しそうだった。
「美希さんは…、彼氏がいるのか…?」
この時、俺は何故こんな事を聞いたかよく分からない。
「もしいたら…、どうする?」
「はぁ、えっ!」
「何を慌ててるの?例えばね話だよ…。」
「別にどうもしねぇよ…。いいんじゃねぇの…。」
「ふーん…。健太も友美ちゃんとの事を、はっきりさせた方がいいよ。いなくなってから気付いても、遅いんだからね。」
「分かってるよ…。」
最近、美希さんが、何を悩んでいたのか、少し分かった気がした。
もし、美希さんに彼氏が出来た場合、俺にちゃんと紹介してくれるのだろうか?
その時、俺は、どういう態度を取るのだろうか?
その時の俺の態度は、美希さんの今後の人生を決めてしまうかも知れない。
責任重大だな…。
来るべき時に備えて、心の準備をしておく必要があるな…。
「明日は、晩ご飯は食べて来るから…。」
「ふーん…。また友美と?」
「明日は違うよ。友美ちゃんだって、そう何度も私に付き合ってくれないよ。」
「もしかして…、彼氏とか…。」
「ち、違うよ!友達…。」
「ふーん…。」