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私と義母 〜side友美〜 (番外編)

友美目線の番外編です。



私の夫は、はっきり言って『マザコン』である。


しかし私は、そんな彼が好きで仕方がない。


子供の頃からずっと…。







夫を好きになったきっかけは、傍から見れば、おかしな話かも知れない。


小学校の入学式の日、私は『彼の母親』に一目惚れしたからだ。


『一目惚れ』という言い方は、ちょっと違うかも知れないが…。


他のお母さん達よりもかなり若く、とても綺麗な人だった。


この時はまだ、近所に住んでる事は知らない。


男の子と仲良く手を繋いで帰るその若いお母さんが、気になって仕方なかった私。


家に帰り、自分の母に彼女達の事を聞いてみると、母の古くからの知り合いで、近所に住んでいる事を聞かされた。


色々複雑な事情があるらしいが、『複雑な事情』とやらは、当時の私には理解出来なかった。


何とかして、その『綺麗なお母さん』と仲良くなりたい私は、その息子と仲良くする事から始める。


それが、夫との出会い。




その当時の夫は、何だか愛想がよくない子供だった。


周りに壁を作っているわけではないが、笑顔が少なく、友達も少ない子供だった。


入学式の帰りは、母親と笑顔で会話していたはずなのに…。


彼の母親と仲良くなりたい私は、一緒懸命、彼に話し掛け、仲良くなろうとする。


そんな私の努力は実を結び、彼とは仲良くなれたし、彼の母親とも仲良くなれた。




当時の私は、恋愛感情はまだ理解出来ていなかったはずだが、彼と一緒にいる事が徐々に楽しくなっていく。


いつの間にか、目的が、母親の方から息子の方へ変わっていった。


遠足で水族館に行った時の事。


水槽をずっと眺めていた彼は、みんなに置いて行かれそうになる。


彼を気に掛けていた私は、それに気付き、慌てて彼の手を取り、みんなのところ引っ張って行く。


後から、何に見惚れていたのか聞いてみると、一頭だけで泳いでいたイルカが可哀想だったと言う。


その言葉の真意を知るのは、もう少し後になってから…。




それから私と彼は、いつも一緒にいるようになる。


少し大きくなると、自分の中の恋心にも気付く。


いつも一緒にいる私達を、囃し立てる子もいたが、彼はそんな事を全く気にしない。


男女の違いを理解し始め、クラスの男女間がギクシャクし始めても、彼はいつも一緒にいてくれた。


偶然を装い、一緒に下校しようとする私に、嫌な顔、一つしない。


そんな彼に、ますます惹かれていく。


この頃には、恐らく彼も、私の事が好きだったはず。


そして、成長した私は、彼の複雑な家庭事情や、どこか淋しげな様子の理由を理解する。




中学生になる頃、私の気持ちは後戻り出来ないところまで来ていた。


同時に、彼がマザコン気味である事にも気付く。


彼の母親は、外見からはあまり想像出来ないが、いつもどこか抜けている。


彼は、そんな母親が心配で仕方がないらしく、いつも気に掛けてばかりいた。


彼の最優先は、いつも母親。


彼が考え事をしてる時は、いつも母親の事を考えている。


そんな彼に苛立ち、『マザコン野郎!』と思ったりもしたが、母親の事を常に心配している優しい彼が好きな私。


そんなジレンマから抜け出せない、この頃の私。


自分から告白しようともしたが、母親を理由に断られるのが怖かった。




高校生になる頃には、私の苛立ちはピークだった。


自分から動く事も出来ず、八方塞がりだったこの頃、私に出来る事は、彼の傍にいる事だけだった。


彼に言い寄る、他の子達への牽制の意味を込めて…。


私は、自分の気持ちを特に隠していなかったが、彼は相変わらず気付いてくれない。


気付いていたのかも知れないが、彼にとっての私は、最優先事項では無かったから…。


そんな彼は、自分の気持ちを必死に隠しているようだったが、そんな彼の態度が、私には可笑しく思えた。


だって、当の本人である私ですら気付いているのだから。




何事も母親が最優先だった彼だが、母親に男性の影がチラつき始めると、微妙に変化を見せ始める。


母親の為を思い、応援してあげようという気持ちと、母親を取られたくないという気持ちの間で揺れ動く彼。


彼はずっと、母親が独身のままなのは、自分の所為だと思っているようだった。


同時に、母親に恋人が出来たら、自分が捨てられるかも知れないという可能性も恐れていた。


そんな事、私から見れば、あるはずがないのにも関わらず。


彼等親子は、自分達の『親子の絆』に自信がない。


多分それは、今もあまり変わっていない。


傍から見れば、母親思いの息子と、息子を見守る優しい母親にしか見えないのにも関わらず。




そして、私と彼が正式に付き合うようになった頃、彼の母親にも恋人が出来、順調に行けば、結婚しそうな感じだった。


複雑な思いを抱えていた彼だが、ようやく、私の方にも振り向くようになる。


少し気が早い事も口走っていたが…。


彼の中における私は、母親の次という位置付けから、母親と同等に大事な存在に格上げされた。


私は、それで妥協する事にする。


出来れば、自分を一番にして欲しいが…。




私の夫に対する思いは、彼の母親への憧れから始まった。


そして、いつしか、彼への恋心に変わり、今では私の良き夫になった。


彼は相変わらず、母親の心配ばかりしている。


私は、それを寛大な目で見守る事が、出来るようになった。


私は、義母のような母親になりたい。


そして、自分の息子を、父親のような立派なマザコンに育てたいと思っている。


ところが、これが中々難しい。


わんぱく盛りの息子に手を焼き、ついついキツく叱ってしまう。


こんな調子で、母親思いの優しい息子に育ってくれるだろうか?


改めて、義母に尊敬の念を抱き、マザコンに育てる秘訣などを聞いてみたいものだ。







「ねぇ、和人はパパとママのどっちが好き?」


「ママの方が好き!」


即答してくれる息子。


ここまではいいのだが…。


「じゃあ、ママとおばあちゃんはどっちが好き?」


「うーん、どっちも好きだけど…。」


この質問には、どうにも歯切れが悪い息子。


おばあちゃんは、和人を叱らないもんね…。




「こんばんは!美希さん!いる?」


「いらっしゃい、友美ちゃん!和ちゃんもよく来たね!」


「おばあちゃん、こんばんは!」


「和ちゃん!『おばあちゃん』じゃないでしょ?」


「間違えた!美希さん、こんばんは!」


「和ちゃんはいい子だねー。大好き!」


「僕も美希さんが大好き!」


「…。」


おかしい…。


どこかが、おかしい…。


何かが間違ってる気がする…。




結婚記念日の今日。


息子を義母に預け、愛する夫の元へ急ぐ私。


久し振りに、二人きりでデートだというのに、私の心は晴れない。


お義母さん…、あなたの息子の事は、妥協してあげてるのだから、あなたの孫は、私に譲ってくれてもいいのではないですか?








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