プロポーズ 〜side美希〜
「私の心配し過ぎかなぁ?」
あれから孝平君とは、よくデートらしきものをしている。
この日は、健太と友美ちゃんの事を愚痴ってしまった。
「僕は、彼等が軽率な行動に出るようには、見えませんでしたよ。」
孝平君も、春子さんと同意見のようだ。
「しかも…、友美ちゃんに嫉妬してる自分も嫌になっちゃって…。」
「やっぱり、美希さん達は『母親』と『息子』ですね。」
彼はそう言って笑っていた。
あれからも、私と孝平君の関係に大きな変化はない。
変わった事と言えば、『坂下さん』から『美希さん』に変わったぐらい。
私がそう呼ぶように言ったんだけど…。
私は孝平君を束縛するつもりはない。
彼はまだ若いし、気が変わる事もあるかも知れない。
その時、私自身の傷が最小限で済むように、予防線を張っているだけかも知れない。
しかし、もう手遅れのような気もするが…。
「今日は、美希さんに伝えたい事があって…。」
「…!」
突然、真剣な表情になった孝平君を見て、私は少し身構える。
「僕はまだ学生で、美希さんには戯言に聞こえるかも知れないんですが…。」
「…。」
彼が私に伝えたいのは、私にとって、良い事なのか、悪い事なのか…。
「僕は美希さんの事が好きです。これは決して軽い気持ちじゃありません。」
「…。」
「歳の差や健太君の事は、僕の気持ちの障害じゃありません。」
「…。」
「美希さんとの結婚も視野に入れてます。勿論、今すぐにじゃないですけど…、それぐらい真剣だという意味です。」
「…。」
「それを踏まえた上で、以前、僕が言った事に対する美希さんの答えを聞かせて下さい。答えが出るまで待ってますから。」
私のズルい考えは、逆に孝平君を束縛してしまっているのかも知れない。
そろそろ、私の態度をはっきりさせる時期が、来たのかも知れない。
「その返事なんだけど…、今してもいい…?」
「は、はい!」
彼も身構えた。
「私はどこか抜けているところがあって、危なっかしい人間なんだけど…。健太にもよく言われてて…。」
「…。」
「まだ手のかかる大きな息子もいて…。今はまだ、健太が何よりも最優先で…。でも、健太が大人になれば、ある程度、自分の時間が持てると思うんだけど…。」
「…。」
「その時、私は将来もほとんど見えてきていると思うの。でも、孝平君はその時、まだ可能性は広がっている状態だと思う…。その時になっても今の気持ちに変わりがなければ…、私と結婚して下さい!」
「は、はい!」
「でも…、それまでに、孝平君の気持ちに変化が生まれたら、隠さず私に言って欲しい。私の所為で、将来有望な若者の可能性を潰したくないから。」
「分かりました。でも、今は自分もちょっと舞い上がっているだけかも知れませんが、僕の気持ちは変わらないですよ。」
私は、もう結婚する事はないと思っていた。
健太が立派に育ってくれれば、それで私の人生は充分満足だと思っていた。
でも…、健太が私の下を離れた後…。
その淋しさを埋めてくれる人が欲しい。
こんな私の考えは、欲張りなんだろうか?