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奇妙なWデート 〜side健太〜

「美希さんの彼氏が、『いいよ』って言ってくれたみたいだよ。」


「何を?」


「だから、お前が一緒でもいいってよ。」


「健ちゃん、本気だったんだ…。」


「当たり前だろ!…、お前が一緒の方が心強いから…。」


「『彼氏』にそこまで頼られたら、嬉しいかも…。」


顔を赤らめる友美。


俺達が、『彼氏』と『彼女』になってから気付いた事がある。


実は、友美はもの凄く可愛いんじゃないかと…。


俺には、勿体ない女の子なんじゃないかと…。


今まで、彼氏がいなかったのが不思議でしょうがない。


「それで、水族館はどうかって言ってるらしいけど。」


「水族館か…。小学生の時、遠足で行った所かなぁ?健ちゃんは覚えてる?」


「覚えてるよ、勿論!」


忘れるわけがない。


その水族館は、俺が友美の事を好きになった場所だから。


あの時、水槽を見続けていた俺は、危うくみんなに置いていかれそうになってしまう。


そんな俺の手を取り、みんなの所へ引っ張って行ったのが友美だった。


初めて握った友美の手は、柔らかく、そして暖かかった。


そう言えば、小さい頃、美希さんと出掛けた時は、いつも美希さんの手を握っていたような…。


いつの間にか、手を繋ぐ事は無くなったけど…。


「何?私の手がどうかした?」


俺は、無意識に友美の手を見ていたらしい。


それを友美に気付かれる。


「べ、別に…。」


「…?もしかして…、手…繋ぎたいの?」


「そ、そんなんじゃないよ!」


「繋ぎたいなら、別にいいよ…、恋人同士なんだから…。はい…。」


「…。」


差し出された友美の手を、そっと握る。


あの時より大きくなった手は、あの時と変わらず、柔らかく、そして暖かかった…。




それにしても、美希さんの彼氏は、俺のおかしなお願いを快諾してくれたと言うが…。


二十歳の学生って言ってたけど、凄くいい人なのかも知れないな…。







そして当日…。


「彼が、友達?の有馬孝平君。」


「どうも…。」


孝平さんは、想像していたよりも大人に見えた。


「初めまして。」


何故か孝平さんは、僕達を見て唖然としている。


初対面だからなのかな?


「それで、この少年が健太で、そっちの女の子が健太の彼女で、竹内友美ちゃん。」


美希さんに、『彼女』と紹介された友美は、少し顔を赤らめた。


「…、息子さんって…、こんなに大きい子だったんですか?」


「…?どういう事?」


「小学生ぐらいの男の子かと思っていました…。彼なら、彼女の一人や二人いて当たり前ですよね…。」


「あれ?言ってなかった?」


どうして美希さんは、いつもそうなんだよ…。


俺の事を、どういう風に話していたんだよ、まったく…。


「ところで…、孝平さんは、独身ですよね?」


バシッ!


「痛っ!」


なにも、叩く事はないじゃないか!







想像以上に大人っぽくて、最初は戸惑ったが、孝平さんは、思っていた通りいい人だった。


話も面白いし、俺達にも気を使ってくれる。


それに、しっかりしてて、どこか抜けたところのある美希さんには丁度いい。


二十歳の学生っていうから、どんな奴だよ!って思っていただけに余計に意外だった。


少し気になったのは、友美の反応だった。


友美も気に入っているとは思うけど…。


もし友美が、孝平さんを好きにでもなってしまったら、俺はどうすればいいんだ!


やっと、長年の想いが通じたというのに…。


それに、美希さんだって…。


ただでさえ、俺の存在がハンデになっているのに、三十路女と女子高生じゃ勝負にならないだろ!


友美を連れて来たのは、失敗だったか?


「孝平さんっていい人だね。」


「ふーん…。」


俺の心配を余所に、能天気な友美に少しイラついた。


「もしかして…、妬いてるの?」


「そ、そんな事ねぇよ!」


「健ちゃん、可愛い…。そういうところも、好き…。」


「…!」


男にとって、『可愛い』は誉め言葉じゃねぇよ!




「ちょっと、お土産見て来てもいい?」


「あっ、私も行きます。」


「じゃあ僕は、あそこで待ってますよ。」


「健太はどうする?」


「俺も待ってる。」


俺は、孝平さんと少し話がしたかった。


孝平さんも、美希さん達に付いて行かなかったのは、俺と話がしたいはずだから。




「健太君達は、本当の親子じゃないなんて、信じられないぐらいだよ。どっからどう見ても、『母親』と『息子』にしか見えないよ。」


「そんな事、ないですよ…。お互い遠慮してる部分もありますから。」


「実の親子だって、遠慮ぐらいするよ。高校生になれば。」


「そんなもんですかねぇ…。孝平さんは…、大人ですね…。学生って聞いてたから、もっとチャラチャラした奴かと思ってました。」


「僕は、坂下さんの前では、大人に見せようと背伸びしてるだけだよ。」


「それを自覚してるって事は、大人って事だと思います。」


「そんなもんですかねぇ…。」


俺の口調を真似て、ニヤリとした孝平さんを見て、吹き出しそうになった。


穏やかな口調で、俺の発言を諭すように話す孝平さんの言葉は、俺には凄く心地よかった。


俺が幼かった頃、聞いた事があるような、心地よい響きだった。


「孝平さんに聞きたい事があるんですけど…。」


「何?」


「美希さんのどこがよかったんですか?」


孝平さんなら、美希さんじゃなくても、同年代の女の人にモテるだろうに…。


「正直な話、彼女の外見に惹かれたのは事実だよ。最初は、もっと若いと思ってたし。」


「…。」


若く見えるというのは、分かるけど、美人かどうかは、俺には分からない。


「それに、僕にとって年齢差は、大して問題じゃないんだよ。うちの両親も十歳離れているからね。」


「そうだったんですか…。」


「一番の理由は…、彼女と話しているうちに気付いた事があって…。」


「…?」


孝平さんは少し言い淀み、チラッと俺を見た。


「彼女が、誰かに支えられながら、無理矢理立っている感じがしたんだよ。危なっかしいというか…。」


「…。」


「今思えば、健太君が一人で支えていたんだけど…。僕も、一緒に支えてあげたくなったってとこかな。」


「…!」


危うく、涙が出そうになった。


直感的に、この人なら大丈夫だと思った。


一緒に支えてくれそうな人に、巡り合えた気がした。


それにしても、こんな人と巡り合えた美希さんは運がいい。


美希さんには勿体ないぐらいだ。


でも…、もし仮に、美希さんと結婚しても、『お父さん』とは呼べそうにはないな…。


いくら何でも、俺と歳が近過ぎる。


どちらかと言えば、兄みたいな感じかな?







そして、その日の夜…。


「どう…だった?」


恐る恐る、美希さんが聞いてくる。


「何が?」


美希さんは、何が聞きたいか分かっていたが、わざととぼけた。


「だから…、孝平君…。」


「うーん…、いい人だと思うよ。でも…。」


「…でも?」


「『お父さん』とは…、呼べそうもないな…。」


「反対って…事?」


そいいう意味じゃなくて!


あー、もう、メンドくさいなぁ!


「反対じゃねぇよ。美希さんが、『孝平さんがいい』って言うなら、俺は別に構わないよ。」


「もうちょっと分かりやすく言いなさいよ…。」


何で分かんないんだよ!


「だから…、孝平さんはいい人。反対はしない。美希さんの好きにして大丈夫。もし結婚しても、歳が近過ぎて、『お父さん』とは呼べない。…以上。」


これで分かっただろ!


「そう…。」


美希さんは、ホッとしたようだった。




「孝平さんと…、結婚するつもりなの?」


気になってしょうがなかった事を聞いてみる。


「ま、まだそんな事まで考えてないよ!『付き合って欲しい』とは言われたけど、返事は保留にしてて…。」


ちょっと、ホッとしたが…。


「もし…、俺の事を気にしてるなら、大きなお世話だからな。俺はもう、ガキじゃないんだから。これからは、美希さんの好きなようにしたらいい。」


「偉そうに…。まだ子供のくせに…。」


そんな事は分かってるんだよ!


「孝平さんの雰囲気ってさぁ…、何か懐かしい感じがしたんだけど…。何でだろうな…。」


疑問に思った事を聞いてみた。


「健太のお父さんに、似ているんだよ、きっと…。」


「ふーん…。あんまり覚えていないんだけどなぁ…。」


それで、懐かしい感じがしたんだな…。








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