告白 〜side健太〜
「俺達の関係ってさぁ…、何だろうな?」
放課後、いつものように一緒に帰る友美に聞いてみる。
この日は、ある決意を持って…。
「…!友達…かな?」
俺の決意がなんとなく伝わってしまったのか、友美は少し身構えた気がした。
「お前さぁ…、好きな奴いるの?」
「…!今日はどうしたの?何か変だよ。」
俺の友美に対する気持ちは、美希さんにバレていた。
美希さんが気付いているという事は、友美本人にも気付かれていると思った方がいい。
それなのに、今まで一緒にいてくれたという事は、友美も同じ気持ちのはずだ。
そう自分に言い聞かせ、勇気を振り絞る。
「俺…、お前が…好きなんだ!」
「えっ!」
「驚かせちゃったかも知れないんだけど…、ずっと前から…。俺と、付き合って欲しい!」
「嘘…。」
「こんな事…、嘘ついてどうするんだよ。」
「健ちゃんは…、誰とも付き合う気はないと思ってた…。」
「俺だって男だし、彼女が欲しいに決まってるだろ…。」
「だって健ちゃんは…、いつも美希さんが一番だから…。」
「美希さんは確かに大事な人だけど、友美はまた別の意味で大事なんだよ。」
「…。」
友美は、何故か目に涙をためている。
その涙は、どっちの涙なんだ?
「返事…、聞かせてもらってないんだけど…。」
「も、勿論、オッケーに決まってるじゃない!私で良かったら…。」
「良かった…。」
本当に…、良かった…。
「私達の事、美希さんが聞いたらびっくりするかな?」
「どうだろう?俺の気持ちには、気付いてたっぽいけど。」
「私だって気付いてたよ。でも、健ちゃんは、私の気持ちには気付いてないと思ってたけどね。」
やっぱり、友美にも気付かれてたんだな…。
こんな事なら、もっと早く何とかするべきだった。
「最近、美希さんにもさぁ…。」
「また美希さん…?」
呆れ顔の友美…。
「やっぱり、何でもない…。」
出来たばかりの『彼女』に、『マザコン』と呆れられるのはさすがにまずい。
もう、『マザコン』ってバレてるんだけどね…。
「何よ!言いかけたなら、言いなさいよ!」
「…、美希さんにも、彼氏が出来たみたいなんだよ…。」
「あっ、やっぱり!」
「お前、何か知ってただろ!」
「さ、さぁ?何の事…?」
今にして思えば、友美は凄く分かりやすい。
思ってる事が、態度に出るから…。
「最初、お前に、『美希さんに彼氏が出来たんじゃないか』って言われた時は、確かに面白くなかったんだけど…。今は何だか、ホッとしてるんだよ。」
「どういう事?」
「俺もよく分からないんだけど…。俺の所為で、美希さんに色々、我慢させているんじゃないかと思ってたから…かな。」
「健ちゃんも、『マザコン』卒業かな?」
「大切な人である事は変わりないよ。」
「私も同じくらい、大切にしてくれる?」
「ああ、多分。」
「『多分』って何よ!」
照れ隠しで、余計な一言を言ってしまった…。
「ところで…、『付き合う』って、具体的に何をすればいいんだ?初めての事だから、よく分からないんだけど。」
「…?いつも一緒にいるとか…かな?一緒に学校へ行ったり、帰ったり…。」
「それって…、今までと、あんまり変わってなくねぇか?」
「私だって、よく分からないんだもん!…あとは、どこかに遊びに行くとか…かな?」
「遊びに行くといえば…。今度、美希さんの彼氏に会うかも知れないんだけど…。お前…、一緒に付いて来てくれない?」
「はぁー?それって、どうなの?」
「三人で会うのは気まずいから、お前もいてくれると助かるんだけど…。」
「確かに、美希さんの相手がどんな人なのか気になるけど…。」
「二人だけで遊びに行くのは、また今度という事で…。その前に、予行演習というか…。」
「赤の他人の私がいたら、その男の人も、迷惑じゃないかな?」
「赤の他人ってわけじゃないだろ。将来、義父と嫁になるかも知れないんだから。」
「…!健ちゃん…、今、凄い事を言ったの分かってる?」
顔を赤らめている友美は、今までで、一番可愛く見えた。
確かに、プロポーズみたいな事を言ってしまったが…。
この時、将来、友美と俺が結婚する事は、違和感なく想像出来た。
彼女が出来た俺が、舞い上がっていただけかも知れないが…。
「一応、考えておいてくれよ。美希さんにも、お願いしてみるから。」
「私が付いて行って、本当に大丈夫なのかなぁ…。」
「この間の、『どこかに遊びに行こう』って話だけどさぁ…。」
よく考えると、おかしな話だが…、美希さんに話してみる。
「…!うん…。」
美希さんは、俺がどんな事を言い出すのか不安そうだった。
「友美も一緒に行ってもいいかな?」
「はぁー?友美ちゃんは関係ないじゃん!」
「それが、全く関係ないって事はないというか…。」
「どういう事?」
「俺…、友美と付き合う事になって…。」
「はぁー?『付き合う』って、恋人同士になったって事?」
「…。それで、どこかに遊びに行こうって話をしたんだけど、二人だけだと少し照れ臭いっていうか…。」
「デートに親が付いて行くなんて、聞いた事ないよ!」
「俺もないけど…。それにこれはデートじゃなくて…。美希さんと、その彼氏と、俺の三人だけというのも何か気まずいから…。」
「友美ちゃんは何て言ってるの?」
「一応、話してみたけど…。」
「そういう事は、二人だけで行った方がいいって!」
「これは、デートじゃないんだろ?もしデートなら、俺が美希さん達に付いて行くのもおかしいわけだから。」
「そうだけど…。」
「女性の客観的な意見っていうのも気になるだろ。」
「それは…、そうだけど…。」
「その人に、聞いてみてくれよ。ダメならダメでいいから。」
「一応、聞いてみるけど…。」
多分、俺は相当おかしな事を言ってるな…。
「その男の人って、何してる人なの?美希さんの同僚?」
「えーと…、同僚じゃなくて…。美容師専門学校の学生…。」
「はぁ?学生?歳はいくつだよ!」
「二十歳…。」
「はぁー?ハタチー!」
美希さんより、俺の方が歳が近いじゃん!
今まで、一緒に暮らしててよく分かっていなかったけど…。
美希さんは、友美が言うように、『凄い美人』なのかも知れない…。
確かに、若くは見えるんだけど…。
美希さんは、俺がいたから色々な事を我慢していたのは間違いない。
二十歳そこそこで俺を引き取り、十年間も育ててくれた恩というのは、俺が思っている以上に大きいのかも知れない。
二十歳から三十歳といえば、普通の女の人は恋人と遊んだり、結婚したりする年頃。
しかし、美希さんはそれを、俺の為に犠牲にしてきた。
美希さんが、ようやく自分の事に目を向ける時間が出来た今。
少し大人になった俺は、それを見守ったり、応援したりする事が出来るはず。
それが、今までの恩に報いる事に繋がると信じたい。
でも、やっぱり…。
少し寂しいよ…、お母さん…。