母の取扱説明書
短編です
家に帰ると、ポストに分厚い冊子が挟まっていた。表紙には「ヒト型アンドロイド—マザー02.— 取扱説明書」と書かれていた。
家に両親はおらず、冊子の宛先は父の名前になっていた。
とりあえず冊子を開いてみると、母の名前が製造ナンバーの横に書いてある。
「お母さんの、取扱説明書って事?」
基本性能の欄には“楽観的な性格”と書かれていた。確かに母は、楽観主義だけど・・・。得意分野の欄には“料理”、“フラダンス”などの母の趣味に関する項目も含まれていて、どうやら本当に母についての取説のようだった。
母は良く物を失くして、探し回る人だったけど、それに関しては「故障ではありません、個体差に寄る個性です」と書かれてあった。面白い。これ、もしかして、流行りの診断みたいなものだろうか。でも母自身が注文するならわかるけど、なんで父宛てで届いたんだろう。帰ってきたら聞いてみよう。
読み進めていくと「故障かな?と思ったら」と書かれた欄に“物忘れが増えた場合”と書かれていた。確かに母は以前より物を忘れるし、失くす。自転車で買い物に行って、歩いて帰ってきたこともある。でも年齢が上がればよくある事だろうと父もそう言って笑っていたし、私も年齢相応なものだと思っていた。しかしその取説には、「脳や体の部品に不具合が生じている場合があります。暫く見守って悪化するようであればメンテナンスをご検討ください」と書かれていた。
「メンテナンスって、健康診断受けろってことかな?」
そう言えば、母は健康診断って受けているんだろうか。会社で仕事をしていれば、おのずと受ける仕様にはなっているはずだけど、母は専業主婦だし、最近肩や腰を軽く叩いたりして、疲れた様子だったし。
冊子を読み進めていると、父が帰ってきた。母より先に帰ってくるとは珍しい。
「お帰り~。なんか変な冊子来てたよ」
「冊子?・・・あぁ、母さんの取説か」
父は見知った風にそう言って、着替えてくると、冊子を軽くパラパラと読み進めた。
「あぁ、そう言えば、今日は母さん帰ってこないからな」
「え、なにそれ聞いてないんだけど」
「冊子に書いてあっただろ?メンテナンスに行ってるんだよ」
「・・・メンテナンス?」
「最近不具合が増えてたからな、ついでに性能を上げてもらおうと思って」
「ん?どういうこと?」
「今度の母さんはすごいぞ!フランス料理まで作れるようになるらしい」
「ん?まってまって、よくわかんない、え?」
「今までの性能だと、レトルトを多用してたけど、今度の母さんは、コンソメも自力で作ったりするようになるらしい。ちょっと性能のオプションを追加したんだ」
「え、まって、お父さん、お母さんって」
「なんだ、知らなかったのか?お前が二歳ぐらいの時から、母さんはアンドロイドだぞ?俺たちが若い頃流行ったんだよ」
これからうちの料理がもっとうまくなるぞ~。と、父はホクホクした様子で風呂に入りに行ってしまった。
——流行った!?——
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