04.シリウスの母の死
それを聞いたのはお茶の約束の一日前だった。
「え、シリウス様のお母様が……??」
「ああ、お前も仲良くしてもらっているんだろう?? 行ってきなさい」
「お母様にはお会いした事がないのですけれど、お父様」
「それでも、お前がいる事でシリウス様も心の支えになるんじゃないかと」
「そうでしょうか……分かりました」
私は言われるままにシリウスの母親の葬儀に向かった。胸が締め付けられる思いだった。早くシリウスに会いたい、会って、少しでも、ほんの少しでもいいから安心して欲しい。こんな会ったばかりの子どもにそれが出来るのかは正直分からない。
あ……そうだ、これだ!! シリウスは母親の死によって無表情に、笑わなくなったんだ!! 五年経っても心の傷は癒えていなかったって事なのかしら。それとも辛すぎて感情を殺してしまったのか。ヒロインに会うまで苦しかったよね、そんな苦しみをあと五年も?? 乗り越える事が出来ないなんて……心が痛い。
シリウス家に着いてメイリがいろいろ進めてくれてシリウスの母親が眠る場所へと案内された。シリウス……どこ……あ、いた!! シリウスは無表情だけれど堂々とそこへ立っていた。迷った、もちろん声は掛けるけれど……シリウスをここから連れ出すか、だ。
「シリウス様、この度は……」
「リズ、来てくれたのか」
凛としていても泣きそうなのを我慢しているんじゃないの?? ねぇシリウス。
「こっち」
私はシリウスの手を握って会場から連れ出した。
「リズ、何、どうしたの」
「いいからこっちに」
「駄目だよ……」
「少しだけだから!!」
さらにギュッと強く手を握ると大人しくシリウスは着いて来た。
「ここ座って」
少し歩くとベンチがあったのでシリウスを座らせてから隣に座った。人の家で勝手に何やっているんだろう……とも思うけれども。
「リズ?? どうしたの」
「ここには誰もいないわ。泣いてもいいし、ボーっとしてもいいわ」
「リズ……」
しばらく沈黙が続いた後シリウスが私の手を強く握り返してきた。それと同時に必死でこらえているような泣き声……シリウス……。しばらく黙って手を握り続けた。そして泣き止んだ頃、頭を撫でながら声を掛ける。
「シリウス様、私は何も出来ません。でもお傍にいる事は出来ます」
私は前世で見た蛍の光を魔法で作って飛ばした。
「綺麗、だな」
「お母様、とても綺麗な方ですのね。それで、この光を……」
「ああ、ありがとう。本当に綺麗だ。リズ、本当に傍にいてくれるのか??」
「当然ですわ!!」
「明日は無理だけれど一週間後、お茶してくれないか??」
「え、そんなにすぐ。いいんですの??」
「大丈夫だ。リズ、傍にいて、手を握ってくれて、綺麗な物を見せてくれてありがとう」
「え、ええ。私が勝手にした事ですわ」
「リズは優しいな……」
「そんな事……もう戻らないとシリウス様探されているかもしれませんね」
「そうだな、戻ろう」
「手……離さなくても??」
「このままじゃ、駄目かな??」
「駄目じゃないです、けど」
「じゃあこのまま行こう」
怒られるかと思ったけれど……何だかスッキリした顔をしていた。お母様は病気であまり長くはないと分かっていたらしいけれどやっぱり実際亡くなってしまうと……。心配していたけれど大丈夫そうね、お母様もきっと安心しているわ。きっとシリウスの事が心配で心配で仕方がない中無念にも亡くなってしまったんだろうし。今は少しでも元気を、でも泣きたい時には涙を、しっかり気持ちを吐き出して欲しい。
「今度ちゃんと伝えるけれど……僕の婚約者になってくれないか」
「はい、は、はい??」
「こんな時に言うのはおかしいとは思っている。でもお母様に報告して紹介したい」
「えっ?? えっ??」
「やっぱり……嫌か??」
「嫌じゃありませんっ」
「では俺の婚約者に……」
「お受けしますわ」
「ありがとう……じゃあ急ごう」
「はい」
あっれぇ~?? シリウスの婚約者ってどっかの御令嬢だったわよね?? 確か侯爵家の……それでシリウスは婚約者に全く興味がなかったわ。じゃあ私も無関心な婚約者になるのかしら……少し悲しい。
「お父様、俺、お母様に婚約者を紹介してもいいですか??」
「こ、婚約者!?」
「はじめまして。伯爵家が娘リズベス・ナイトハルトと申します」
「あ、ああ」
「じゃあ行こうリズ」
お母様の所へ連れていかれる……。本当に綺麗な方……シリウス様はお母様似ね。
「お母様、婚約者のリズです。とても、とても良い女性です。安心して下さい」
「はじめまして。伯爵家が娘リズベス・ナイトハルトと申します」
「リズって呼んであげて。お母様」
シリウスは笑顔でお母様に紹介してくれた。心なしかシリウスのお母様も安心したような表情になった気がした。気のせいだろうけれど本当にそう見えたの。
「シリウス様……」
「リズ、本当に本当にありがとう。お父様、驚かせてしまってすみません」
「私からも……」
「謝らなくていい、シリウス。本当の事なんだろう??」
「もちろんです!!」
シリウスはハッキリ言い切った。
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