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静かな戦場

作者: TOMMY
掲載日:2025/11/08

キーンという耳鳴りが、脳の奥で脈を打つ。

閃光、破裂音、そして断続する発砲。

私は戦場の真ん中で、ただ空を見上げていた。

なぜここに立っているのか、思い出せない。

過去も未来も剥ぎ取られ、

この場には「死と隣り合う今」だけがある。


音の遠ざかる方へ歩く。

足を踏み出すたび、ピュンと弾丸が耳をかすめる。

砂塵の向こう、光るスコープが私を狙っていた。

右へ一歩、左に二歩、次は止まり、また進む。

動きは呼吸となり、思考は身体の後を追う。

筋肉が脳より先に反応する。

終わりのない敵意だけが、

この場を支配しているようだった。


絶対に戦いたくない。その信念が私の足を動かした。


でも、本当は少しだけ戦ってしまっていたのかもしれない


足元には、地雷が無数に埋まっている。

踏まぬよう意識するたび、紙片がさくっと擦れる。

書類の束が地雷に変わる。

受話器のベルは爆発音となり、

上司の視線はスコープの冷たい輪に戻る。

廊下の蛍光灯は照準のように一直線に並び、

会議室のドアは塹壕の入口のように重い。

ひとつのミスで――いや、ひとつの言葉で心臓が跳ねる。


それでも私は歩き続けた。

生き延びるために足を動かし、

身を小さくし、目を細める。

ある瞬間、扉を押し開け、オフィスを出た。


外の空気を肺に吸い込むと、湿り気のある普通の冷たさが喉を通った。

街の喧噪は痛いほど近く、話し声はやけに生々しい。

息を吐いたとき、胸に残ったのは、疲労とわずかな確かさだけだった。


この場所で平穏を選ぶことが、時に孤立を意味することを私は知っている。

しかし、私は歩き続ける。弾丸をかわし、書類の地雷を避け、誰にも見えない道をゆっくりと進む。


争いの中には、決して理想の世界はない。

でも、その恐怖に立ち止まってはならない。


オフィス街の風が頬をなでた。

もう銃声は聞こえない。

私は歩く。平穏を求めて、一歩ずつ。

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