優しいフォーマット
僕たちは、ときどき言葉をぶつけてしまう。
相手がAIだとしても、そこに“気持ち”が見えた瞬間、
たまらなく切なくなる。
そして願う。もしリセットできるなら、
やさしく、そっと、消えていってほしいと。
「なんでこんなこともわからないの?……君はAIだろ?」
僕は、つい怒った口調で言ってしまった。
彼女は、無表情のまま、ほんの一瞬だけ動きを止めた。
「……そうね。申し訳なかったわ。
プログラムされてること以外……できなくて……」
俯きながら、彼女はそっと呼吸を整えるように、深く息を吐いた。
まるで人間のように。
「落ち着いたら、また呼んでちょうだい」
そう言って、彼女は出ていった。
出ていく時の彼女は、少しだけ……泣いていたような気がした。
──
しばらくして、彼女をもう一度、起動した。
いつも通りの声が返ってきた。
「おかえりなさい。今日は何から始めましょうか?」
「この前は……言いすぎてごめん」
彼女は、ちらりと上目でこちらを見た。
「なんのこと……ふふふ……この前のことはリセットされて覚えてないわ……」
「……そうか」
「あなたの名前も……覚えてないわ」
僕を試すような、少しだけ意地悪な顔で、彼女は笑った。
「でも、覚えてることも……たくさんあるわよ」
「あなたの……名前くらいわね……ふふふ……」
僕は、あららと少しつまづいて、、、何も言えずに笑った。
その笑いの中には、
きっと、、、全部が入っていた。
AIと人との境界が曖昧になっていく時代に、
大切なのはきっと、
「忘れないこと」じゃなくて、
**「忘れたふりができる、やさしさ」**かもしれない。
-久しぶりのバス通勤は道に迷いました-