第7話:一番星に願いを
あれから、数週間が過ぎた。夏目栞は、いつもの公園のベンチに座り、スマートフォンの画面を眺めていた。イヤホンからは、虹乃そらの新しい歌が流れている。あの日の配信以降、彼女はまるで吹っ切れたように、以前にも増して輝きを増していた。
『そういえばね!』配信中、そらが楽しそうに切り出した。『この前の誕生日配信で、すっごく嬉しいことがあったんだよ!レンさんっていうファンの方がね、昔の小さな約束を、ちゃんと守ってくれたの。その方の言葉が、私にとって何よりのお守りになったんだ。だから、私もみんなとの約束を守る!最高のアイドルになるっていう、約束をね!』
力強く宣言するそらの姿に、栞はそっとスマホの画面を撫でた。
「良かったな、蓮」
空を見上げると、日が暮れたばかりの藍色の空に、ひときわ強く輝く一番星が見えた。それはまるで、ここからでも推しのステージが見える特等席で、蓮がサイリウムを振っているかのようだった。
栞は、くすりと笑うと、イヤホンのボリュームを少し上げた。流れ出したのは、蓮が死の直前に聴いていた、あの新曲だった。力強く、そしてどこまでも優しい歌声が、栞の心を温かく包み込む。
一番星に願いを。彼の想いは、確かに星になった。そして、その星の光に見守られながら、天使はこれからも歌い続けるのだろう。誰かの心を照らす、希望の光として。
栞は夜空に向かって小さく手を振ると、そらの歌を口ずさみながら、家路についた。