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志野木先輩は人間社会に絶望した社畜である。

作者: 崎ノ夜


「こんな世界に一番いらないのは、人間じゃね?」



 っと、こはれ志野木先輩の"ただの"口癖だと思っていたが、今日、彼女が寮に帰った時、バカって書いてる室内靴を履いたのを見かけて、そのいつもの口癖は、実は本音だと分かった。





 20XX年。世界を巻き込む核戦争は終わった。メチャクチャにされた地球表面から、リザードマンと呼ばれる幻想的な化物が、巣を破られた蟻のように、ザラザラっと湧いて、出てきた。



 リザードマンは、この地球は彼らの星だと訴え、人間はその表面に湧いてきた害獣だと訴え、無差別に人間を殺し始めた。奴らは凶暴で、とても、"駆除"するために殺したとは思えない。まるで、"遊んでる"のような殺し方をしてることが多かった。奴らに殺された人間の死体を見れば、分かる。それはきっと、生き地獄という言葉でも足りない死に様だった。



 でも、人間は奴らに支配されるとか、奴隷にされたようなことはなかった。それは、核の放射線で突然変異した人間たちが現れて、リザードマンより強い力を持ったからだ。



 そして、そのような突然変異した人間たちは、後に"ヒーロー"って呼ばれた。



 もちろん、物語のように、ヒーローは皆に感謝され、慕われているだが、そうだと思わない人もたくさんいる。だから、人類軍と呼ばれた施設が成立された。よく言えば、ヒーローたちにより正しい情報を与えて、人々をリザードマンから守られる役割を担ってる施設だが、悪く言えば、勤務時間は週七日で、一日24時間で、呼ばれたら出動というブラック企業でしかないのだ。



 あっ、悪く言えばって話しは志野木先輩が言ったことで、僕たちヒーローはちゃんと休みを取られるだよ。でも、志野木先輩は学校と施設の寮以外、行くとこないらしいから、「君、休みいらないよね?」って、上司に言われたことあるから。



 実際、僕、一度だけ、こっそり志野木先輩の部屋をのぞき見して、あれ本当に殺風景っていうか、何もないっていうか、…………話しが逸れた。



 とにかく、人類軍のヒーローの中に、一番強い志野木先輩は、学校でいじめられているのだ。



 そして、僕は今まさに、彼女の学校がリザードマンに襲撃されているとの報告を受けて、現場に向かったが、やはり、志野木先輩は最強だ。彼女一人で全部を片付けていて、僕は廃墟になり、下敷きにされた生徒たちを助けるしか仕事がない。



 その時、僕は聞こえた、というか、すぐそばに居るから、志野木先輩と彼女をいじめている子たちの会話を聞いた。



 その子たちは泣きながら、「ごめんさない」とか「ありがとう」とか、言ってるだが、志野木先輩はいつも通り無表情で死んだ魚の目をしていて、何を考えているのか分からない顔で、ただ、淡々とそう言った。



「仕事だから」



 って、その一言だけ残して、志野木先輩は離れた。



 僕はゾっとした。アレはカッコつけるため言ったのではなく、ヒーローとしての責任からそう言ったのでもない。アレは文字通り、『仕事だから』だ。



 志野木先輩は感情を持ってないのか?違う、きっと、あるはずだ。僕が彼女の誕生日にケーキとプレゼントをあげた時、彼女は淡い微笑みで僕に「ありがとう、嶋くん」って言った。作り上げた笑顔ではなく、お世辞で言ったのもなく、ずっと彼女のことを見てきた僕なら分かる。



 だからあの時、僕はゾッとしたのだ。



『こんな世界に一番いらないのは、人間じゃね?』



 この志野木先輩の口癖は、彼女が持ってる力なら、現実になれる。彼女がもし、ある日、本当にこの人間の社会に絶望したら、その日は本当に人間が絶滅する日だろうっと僕は思ってしまった。



 この事件の後、元の学校が無くなったので、彼女が転校した。でも、やはり、人間社会とは、"皆と違う人"はいらないみたいで、口下手な彼女はまたいじめられる対象となった。



 彼女はきっと、何があったのかを言わない。そして、ヒーローは人に手を出すことは決して許されていない。



 だから僕にできるのは、毎日のようにバイクで志野木先輩を学校へ送り、下校時に校門で彼女を待つだけだ。「志野木先輩は一人ぼっちじゃない」って、彼女をいじめている子に行動で示すしかできない。



「こんな世界に一番いらないのは、人間じゃね?」



 って、この日の任務に向かう途中、雨のように散る人々の血を見て、彼女はまたその口癖を口にした。



「志野木先輩!その隣にはモールがあるんです!僕予約した先輩の誕生日ケーキが危ないですよォー!」



「……誕生日?」



「そうだよ!明日でしょう?ケーキがないと僕、泣いちゃうよ!」



「……そっか、それは大変だ……」



 そう言って、表情一つ変わらなくリザードマンを血祭りにした志野木先輩を見て、その彼女の戦いぶりを、化物を見てるような人々を見て、やはり、僕にできることは祈りしかないっと思った。



 他の奴を全部殺して、僕と志野木先輩しかいない世界って、早く来ないかな……なんて。

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